聖皇女コーネリア

□第8章
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コーネリアのような旅に不慣れで箱入り娘が一人で行動しようものなら、まんまと悪い連中の標的になってしまうだろう。

「おう、いい返事だ。それじゃあ、エイディン島行きの乗船券を買いに行くぞ」

そう言うとディオンはコーネリアへ手を差し伸べた。
はぐれてしまわないよう、手を繋いで行こうという意図なのだろう。

ダンスの時を除き、肉親以外の男性と手を触れ合った事は滅多にない。
出会ってから日も浅いディオンと手を繋ぐのは、いささか恥ずかしいとコーネリアは思ってしまう。

しかし、せっかくの好意を無駄にするのも失礼である。
しばし躊躇した後、コーネリアは戸惑いがちに彼の手を取るのだった。

――ディオン殿の手、温かいですわ。

握った手のひらに伝わるディオンの温もりに、思わずドキドキしてしまう。
その温もりは大好きな兄皇子、エルンストを思い出させた。

――幼い頃はよくこうして、エル兄上と手を繋いでいましたっけ。懐かしいですわね。

皇族らしく柔らかで綺麗な手をしていたエルンスト皇太子と違い、ディオンの手は剣ダコなどでごつごつとしている。
だが、手のひらに伝わる優しい温もりは、とても似ているとコーネリアは思っていた。

一方、ディオンも彼女の手の柔らかさ、温かさに胸をドギマギしていた。
いかにもお嬢様っぽい外見に相応しい、綺麗で上品な手だと素直に感心してしまう。

――やっぱ、いいトコのお嬢さんなのは間違いないな。はぁ、同じお嬢でもアイツとは大違いだぜ……。

脳裏に浮かぶのは、ビキニアーマーがトレードマークな美女の姿。
父である魔の王に決められた結婚相手、エクレール・ブリゼーであった。

なお、大違いというのは手ではなく、性格の話である事をここに補足しておく。

――あの女もコーネみたいな淑やかさと、可愛らしさがあれば……。………………いや、やっぱそれでも無理だな。

筋金入りの闇の眷属嫌いである為、どんなに好みのタイプに変わってもエクレールを愛する事はないだろう。

「……あのう、どうかしましたか?」

遠慮がちにかけられた声に、ディオンはハッとした。
どうやら、しばし考え事に没頭していたらしい。

「す、すまねぇ。女の手を握るのが久しぶりだったもんだから、ついついボーッとしちまったよ」


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