聖皇女コーネリア
□第8章
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それでも完全に壊れてしまえば、修理不可能になってしまうのである。
幸いな事に古代技術の粋を集めて作られた機械なだけあって、炎神機関は非常に丈夫だ。
神聖教が誕生してからの約千年間、船体が壊れた事があっても機関は一度も深刻な損傷を受けていないという。
だが万が一、現存する三つの炎神機関が失われるような事があれば……。
人々がエイディン島に詣でる事はおろか、彼の地に住まう人々が外に出られなくなってしまう。
神聖教はユニヴェ―ルにとって、もはやなくてはならない組織だ。
エイディン島との行き来が不可能になれば、世界にとって大きな痛手となるに違いないだろう。
「この街に来るのも久しぶりだな」
何気なく呟かれた一言に、コーネリアは首を傾げた。
「ディオンさんは以前、ササンに来た事があるんですか?」
「まあな。俺は長い間、旅をしてるからけっこうあちこちに行ってるんだよ」
その口振りから彼が旅慣れている事は間違いないと、コーネリアは確信する。
やはりディオンに道中の護衛を依頼して良かったと、改めて思うのだった。
「それにしても、皇国で一番大きな港があるだけに、街は随時と賑わっているんですね」
首都である皇都アリストテレシア程ではないが、ササンの街もかなり人が多い。
ローディス島やサウリア諸島に行く旅人、エイディン島を目指す巡礼者が集まるからだろう。
そんな人々を対象にした店もササンには多数存在する。
土産物を扱う店、旅の必需品となる道具を売る店、魔法を封じた札を販売する店などだ。
飲食店に宿なども充実している。
また、交易も盛んに行われており、港では大陸外からの輸入品が頻繁に水揚げされていた。
当然、こちらから輸出する品々も大量に船へと積み込まれる。
「人が多いからはぐれないよう気を付けろよ? うかうかしていると迷子になっちまうからな」
「分かりました。ディオンさんから離れないようにしますね」
元より、彼の側を離れる気などなかった。
初めて来た地で単独行動を取るのは危険だと、ロデリア村で痛感したからである。
人が多く活気に満ちているという事は、それだけ様々な人間が集まっているのを意味する。
それらの人々が善良な人ばかりだとは限らない。
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