聖皇女コーネリア
□第4章
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これにコーネリアを隠して荷物と偽り、まんまと皇都から出るつもりなのだろう。
「……にしても、魔者どもは人間の女を集めて何をするんでしょうね」
作業に奮闘するフェイスを手伝おうともせず、ニーナはぽつりと呟いた。
殆どの人間は知らないが、彼らのように裏の世界で生きる者達の間で、密かに囁かれている噂がある。
魔者が人間の女を集めており、高値で買い取ってくれるそうだ……と。
にわかには信じ難い話だが、これは良い金儲けのチャンスかもしれない……と、三人はこの噂に飛びついた。
それから彼らは各地を徘徊し、護衛を受ける振りをして一人旅の女性を騙し、魔者に売り飛ばすようになったのである。
既に何度も取引をしており、被害に遭った女性は十人を超すという。
「さあな。あちらさんの考える事なんざ、人間の俺らには分からんよ」
お金さえ貰えれば売られた女性達がどうなろうとも構わない――。
それらが彼ら三人の考えだった。
ニーナが疑問を口にしたのは、罪悪感からのものではない。
ただ単に興味本位なだけだ。
女性達の行く末を知ったからといって、心を痛めたり己の行いを後悔するような性格ではないのだ。
心を痛めたり反省するような女性であれば、彼女はこんな悪事に携わったりしないだろう……。
魔者と取引をしているといっても、彼らは連中に味方している訳ではない。
人並みに奴らを恐れる感情は持っている。
取引の時を除けば、なるべくかかわり合いにはなりたくないのだ。
自分達の行いは結果として魔者達に荷担するのと同じ事だと分かっていたが、どうせいずれは聖皇女サマが封印して下さるのだから……と、実に楽天的である。
今まさにさらおうとしている少女が、聖皇女候補だというのに……。
間接的に人類の滅びを招きそうになっているなど、この者達は気付きもしないのだろう。
何とも滑稽な話だ。
悪党三人組がコーネリアを袋詰めにしていた頃、一人の青年がスラムを歩いていた。
赤茶けた髪と緑の瞳が印象的な、どこか粗野な雰囲気を持つ若者である。
容姿は端正な部類に入るだろう。
それなりの格好をしていれば、どこかの貴公子と見間違われてもおかしくなさそうだ。
身の竹程もある長剣を背負い、簡素な鎧に身を包んでいる事から恐らくは冒険者と思われる。
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