聖皇女コーネリア

□第3章
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家臣達の姿はない。
気を使って退室しているのだろう。

「父上、母上。今まで……今まで大変お世話になりました。わたくしはお二人の娘に生まれ、本当に幸せでしたわ……」

使者が来たあの日、旅立つ時まで取っておくように言われた言葉を、コーネリアは両親へ告げる。

この世界に生を受けてからの十六年は、彼女にとって幸福な日々だった。
コーネリアが何不自由なく健やかに育つ事が出来たのは、両親を始めとする様々な人達のお陰なのだ。

皇女が告げた言葉には、そんな最大限の気持ちが込められている。

「余もそなたのような素晴らしい娘の親となれ、まことに幸福であったぞ……」

二度と会う事が叶わない我が子の顔を、その目に焼き付けようとしているのだろうか。
セイファート十三世とエルランジュ皇后は、愛娘の顔を真っ直ぐ見据える。

コーネリアが優しく素直で真っ直ぐな娘に育った事を、皇帝夫妻は心から誇りに思っていた。

自分達や娘がこのような時代に生まれてしまった事。
我が子が次の聖皇女にならなければならない事――。
時にはそれらの運命と女神を、呪った事さえあった。

本当は今この瞬間も娘の旅立ちを、引き止めたくて堪らないに違いない。
だが皇帝夫妻は親として当然なその気持ちを、ぐっと堪える。
代わりに、最大限の愛情を込めてコーネリアを抱き締めた。

「頑張るのですよ、コーネリア。わたくし達はどんな時でも、貴女の事を想っていますよ」

慈愛の籠もった微笑みを浮かべ、エルランジュ皇后がそう言う。

「コーネリア、お前は我が最愛の娘だ。道中の無事と……試練の成功を祈っておるぞ。……達者でな」

威厳ある堂々とした佇まいで、セイファート帝は告げる。
二人とも泣きたいのを必死に堪え、旅立つ娘に言葉をかけていた。


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