聖皇女コーネリア

□第1章
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宮殿の私室に戻ったコーネリアは、すぐにお忍び用の服から普段着用のドレスに着替えた。
わざわざ着替えなくても……と思っているが、大神殿からの使者と会わなければならないので、正装といわないまでも、きちんとした格好をしなければならないのである。

着替えを手伝った侍女達に礼を言った後、コーネリアは急いで謁見の間に向かう。
帰って来てすぐ聞いた話では、使者は既に皇帝に聖神官の言葉を伝えている最中らしい。

最初は皇女が戻って来るまで待つつもりだったらしいのだが、いつまで経っても来る気配がなかったため、先に始めていたそうだ。
それでもなかなか帰って来ないので、しびれを切らして騎士を寄越したのだろう。

謁見の間へと続く扉の前に到着すると、衛兵がコーネリアに敬礼を向ける。
そして、扉を開けて皇女を促した。

「皇女殿下、皆様がお待ちかねです。どうぞ中へ……」

「ええ」

コーネリアは頷くと、謁見の間へと歩みを進める。
入室した途端、正面奥の玉座に腰かけた皇帝夫妻――両親――が、目の前で跪く大神殿からの使者の話に、耳を傾けている姿が目に入った。
兄であるエルンスト皇太子の姿は無い。

「おお、やっと帰って来たか。待ちかねたぞ、コーネリア」

娘に気が付いた皇帝が、そう声をかける。
コーネリアは遅れた事を詫びると、四つ並んだ玉座の内、皇后の隣にある方へと腰を下ろす。
なお、皇帝の隣は皇太子の定位置である。

「貴方が大神殿からの使者殿ですね。遠路遥々、ようこそお出で下さいました。わたくしがアリストレア皇国第一皇女、コーネリア・アウラ・エーべルハイトです」

慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、コーネリアは使者に声をかけた。
その類い希なる美しい微笑みに、彼はしばしの間見とれてしまう。
女性との深い接触を禁じられている聖職者であっても、大陸一の美姫と名高い彼女の笑顔に見とれてしまわずにはいられまい。

「……あの、いかがなさいましたか?」

いつまで経っても言葉を発さない使者に、皇女は不思議そうに声をかけた。
使者はハッと気を取り直すと、ようやく喋り始める。

「お目にかかれて光栄でございます。私は神聖教にて二等神官を務めております、ロベルト・ウェラスと申します」


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