聖皇女コーネリア

□第11章
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巡礼船内の牢に閉じ込められた人浚い達は己の命運が尽きた事を悟り、これまで働いてきた悪事を棚にあげて嘆いていた。

「あ〜、ちくしょう! 処刑なんて勘弁だぜ! 死ぬのは嫌だぁ〜!」

鉄格子をガシャガシャと揺らしながら、必死の形相で叫ぶフェイス。
鼻水を垂らしているお陰で、せっかくの端正な顔立ちが台無しである。

同じ牢に入れられているニーナ、親分も固く冷たい床に座り込み、虚ろな瞳で天井をボーッと眺めるのみ。
この後に待ち受ける運命を前に、気力など無くしてしまったのだろう。

投与された自白剤によって罪を明らかにされ、彼らの有罪は確定した。
人類の敵たる魔者に与した重罪人として、女神の名の下に処刑されてしまうのである。

自白剤によって吐かされる言葉は、全て真実。
正確には飲まされた本人が“真実だと思っている事”である。
つまり、嘘をついたり、誤魔化したりは絶対に不可能なのだ。

その為、自白剤は聖騎士が容疑者を取り調べる際に活用される。
ただし、使用は神聖教の聖騎士および神官のみに限られていた。
更に聖騎士は小隊長以上、神官は正階級の者にしか投与の権限が与えられていない。

広く世界に流通していないのには、当然ながら理由がある。
相手の隠している事や、秘密にしておきたい事などを洗いざらい白状させられる薬は、一歩間違えればトラブルの火種となりかねない。
また、それらを薬の力で無理やり引き出すのは、この世界の倫理観から大きく逸脱している。

故に限られた者、限られた状況下でのみ使用が許可されるのだ。
使用した際はそれを許可した者の名前と神聖教内での階級、投与した相手の名前と素性などを既定の書類に記入し、上に提出しなければならない。

「くそっ、くそくそくそっ! それもこれもあの女のせいだ! アイツが俺らの前に現れなきゃ、こんな所であんな事をやらかしたりしなかったのによぉ!」

両手で頭を掻きむしり、ついにはコーネリアを逆恨みしてしまう。
なんと身勝手な男だろうか?
悪いのは全て自分達だというのに……。

「おのれ、コーネ・ハイムぅ〜! 綺麗なツラして何て悪どい女なんだ。次にあったら絶対に×××して、×××してやるっ!」

フェイスは血走った眼で復讐を誓う。
だが、処刑待ちの身である彼に復讐する機会などない。
処刑されるまでにコーネリアと顔を合わせる事もないだろう。

「うるせーぞ、フェイス。ちったぁ黙らねーか……」

檻に入れられた猛獣よろしく、ギャアギャアと喚く子分を親分が叱る。
非常にやる気のない、無気力な声で。

叱ったのは、隣室にいる聖騎士らの迷惑を考えてではない。
ただ単に鬱陶しかったからである。


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