聖皇女コーネリア

□第8章
1ページ/19ページ

追い出されるようにしてロデリア村を後にした、コーネリアとディオン。
港街ササンを目指して進む二人の表情には、どこか翳りがあった。

ロデリア村の事件から一日が過ぎたというのに、未だ心の中でやるせない思いがくすぶっているのだ。
無理もないだろう。
あのような事があってから日が浅いのだから。
責任を感じているだけに、頭の中から忘れ去る事も出来ないのだ。

せめて、魔の王を封印して世界に平和を取り戻す事で罪滅ぼしをしたいと、コーネリアは思っていた。
それだけが彼女に出来る精一杯の事なのだから……。


会話もせず無言のまま歩みを進めた二人がササンに着いたのは、昼を少し過ぎたぐらいの時間帯だった。

アリストレア皇国領に存在する港街ササンは世界で唯一、聖地エイディン島行きの船が出ている地である。
他の港から神聖教の総本山に行く事は不可能なのだ。

何故ならばササン以外からあちら行きの船を出す事を、エイディン島側が禁じているからである。
言うまでもないが、島を出た船が向かうのはやはりササンのみだ。
巡礼者にとって、かなり手間がかかる事この上ない。
だが、同じセレディナ大陸内の国ならば、まだマシな方である。
遠く海を隔てたローディス大陸やサウリア諸島からの巡礼者となると、わざわざ船でこちらへ来てからエイディン島行きの船に乗らなければならないのだから……。

ササン以外の港から船の出入りを禁ずる理由、それはエイディン島の特性にある。
初代聖神官マリアンナは魔の王が復活して闇の眷属が再び現れた際、聖地を犯されない為にと島の周囲を障壁で覆ったのだ。

障壁は皇都アリストテレシアを守護する結界と違い、人間でさえも突破する事が出来ない。
また、障壁で覆われた島は外側から見れば建物一つない、ただの無人島にしか見えないのである。

だが、炎神〈エンジン〉機関と呼ばれる古代文明の遺産を搭載した船ならば障壁を突破出来るし、島を覆うカモフラージュを見破れるのだ。
この世界で唯一、ササン港とエイディン島を行き来する定期船のみが、炎神機関を搭載しているのである。

現在では製造技術が失われている為、聖地行きの新たな船を建造する事は不可能だ。
今日の人々に出来るのは、修復する事のみ。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ