聖皇女コーネリア

□第7章
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決して逆らってはならない相手を敵に回してしまった事に、デーモンは激しく後悔してしまう。

上級の魔物――上魔――である彼さえも、畏怖する相手。
それがディオン・ガーライズの正体であった……。

「ワ、ワタシハ魔ノ王様ノ為二、愚カナ人間ドモヲ……ッ!」

命乞いのつもりなのか、魔物は何やら言い訳を始める。
だが、それを最後まで言い切る事は出来なかった。

ディオンがの長剣によって首を跳ね飛ばされたからである。
痛みを感じる暇もなく、デーモンは絶命する。

魔物を憎む彼といえども、じわじわと嬲り殺しにする趣味は持ち合わせていない。
抹殺さえ出来れば良いのだから……。

灰になって崩れ落ちていく魔物を背にしながら、ディオンは武器を収める。

「……俺は“人間の味方”だ。テメェらとは違うんだよ」

そう呟くと放心しているコーネリアの側へと向かった。


ディオン・ガーライズ。
それは彼の本名ではない。
人間界〈こちら〉で行動する際の偽名だ。

本当の名はディオニス。
魔の王の実の息子である。
今から千十二年前に、魔の王と人間の女性の間に生まれた半魔〈ハーフ〉だった。

千歳以上という高齢だが、魔者にとってはまだ若い年齢である。
魔者の寿命は三千年と長い。
彼らはちょうど千歳で成人を迎えるのだ。

つまり、人間に換算するとディオンは二十代前半といえる。

半分は人間の血をひく彼は、魔者達から影で忌み嫌われていた。
表向きは王子として敬意を払われていたが、裏では半端者と見下されていたのである。
第二妃とされた母はディオンが十歳の時に、正妃一派によって殺されてしまった。

当時、正妃には息子が一人おり、彼が王位継承権を持っていた。
しかし、政略結婚によって結ばれた正妃よりも、第二妃である人間の女性の方を王は愛していたのである。

愛する女性との子を次の王に……。
そう決めた魔の王は長男から継承権を剥奪し、ディオンに与えてしまった。

息子が得るはずだった継承権を半魔の王子に奪われ、正妃を始め貴族達は激しく激怒したのである。
しかし、絶対的な権力者たる魔の王には逆らえない……。

必然的に彼らの怒りの矛先は、ディオンとその母である第二妃へと向けられたのである。

だが、寵愛を一身に受ける第二妃らを害すれば、王が黙っている筈などない。
その事を正妃達は失念してしまっていた。


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