聖皇女コーネリア

□第6章
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濡れ衣を着せられ、村長宅の納屋に閉じ込められたコーネリアとディオン。
ひとまず、村人達から暴行を受けたディオンの傷を癒やす事にする。

気絶している彼を見据え、そっと呪文を唱えた。

「スリトカィス トッセ ルーリゲ!」

魔法の呪文には古代語が使われている。
かつて、今の文明の前に存在していたという、繁栄を極めた旧文明。
その名残は殆ど喪われてしまったが、こういった形で今日も残っているのだ。

もっとも、魔法を扱う者以外には馴染みのない言語ではあるが……。

治癒魔法の呪文が詠唱された直後、ディオンの身体が淡い光に包み込まれる。
この光が対象の新陳代謝を高め、傷の回復速度を速めるのだ。
それ故に瀕死状態の者を癒やす事は不可能となっている。
今みたいな初歩の治癒魔法ではなく、高度な魔法が必要となるのだ。

その呪文をコーネリアはまだ使う事が出来ない。
かなり高位の術者でないと唱えられないのである。

光が消えた後、ディオンの傷はほぼ治っていた。
軽い怪我だった為だろう。

「良かったですわ……」

ほっと息をつくコーネリア。
だが、安堵したところで状況は何も変わらない。

攻撃魔法で納屋に穴を開け、そこから脱出するという手を考えたが……。

――音で気付かれてしまいますし、腕を縛られている状況では逃げ辛いでしょうね……。

だいいち、そんな状態では荷物の回収だって出来ないだろう。
武器も食料もお金も全て、村長に没収されてしまったのだ。
それを取り返さなければ、旅を続ける事など不可能である。

――どうしたら、いいのかしら……。

途方に暮れて溜息をつくコーネリア。
昨日の誘拐未遂に加えて、お次は冤罪で軟禁状態。
旅を始めてからまだ二日目だというのに、トラブルばかり続いてしまっている。

こんな調子で世界を救う事が出来るのだろうか……と、コーネリアは意気消沈してしまう。

俯いているせいでディオンが意識を取り戻した事に、声をかけられるまで気付けなかった。

「溜息なんてついてたら、幸せが逃げちまうぜ?」

「ディオンさん! 気が付いたんですね……!」

ハッと顔を上げ、コーネリアが嬉しそうに言う。


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