聖皇女コーネリア

□第5章
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皇都アリストテレシアを立ってから二日目、コーネリア達は小さな村に着いていた。

アリストテレシアと港街ササンのちょうど中間辺りにある村だ。
ロデリアという名のごく普通の農村である。
巡礼でエイディン島に行く人々が立ち寄る以外、あまり旅人が来る事の無い田舎であった。

「やっと村に着いたか……」

久し振りにベッドで休めるのが嬉しいのだろう。
ディオンはどこか嬉しそうだ。

昨日――コーネリアと出会った日――の夜は野宿だったし、それ以前も野宿ばかり続いていたらしい。
コーネリアと出会う前の日は木賃宿に泊まっていたが、ベッドと呼ぶのもおこがましい粗末な寝台だったので、休んだという気になれなかったのだ。

鄙びた農村にある宿とはいえ、木賃宿に比べれば随分とましである。

ようやくまともなベッドで眠れるのが嬉しいのか、ディオンの足取りは軽い。
村に辿り着くまで、何度か魔物と戦っていたとは思えない程の元気さだ。

元々、体力がある方なのだろう。
馴れない旅と野宿、戦闘ですっかり疲れてしまっていたコーネリアには、そんな彼が眩しく思えた。

――わたくしも足手まといにならないよう、頑張りませんと……!

そう決意しながらコーネリアは、宿へと向かうディオンの後を追うのであった。


村の中を歩いていた二人はおかしな事に気付く。
さっきからずっと人の姿を見かけないのだ。
現在の時刻はだいたい夕方頃。
まだ人が外にいても不自然ではない時間帯である。

まるで誰もいないかのようにしんと静まり返った村の様子に、コーネリア達は違和感を覚えてしまった。

「……何かあったのでしょうか。まさか、魔物に襲われて全滅した……とか」

コーネリアは最悪の可能性を思い浮かべる。
結界器によって魔物達の侵入を防いでいる皇都と違い、他の街や村は無防備そのものである。
住民の中から有志を募って組織した自警団、あるいは領主が所有する私兵、雇った傭兵などに守らせるしか術がなかった。

それでも太刀打ち出来ない程強力な魔物が出た場合、もうどうしようもない。
魔物を率いる魔者によって占領され、住民らは全員彼らの捕虜となるしかないのだ。


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