聖皇女コーネリア 外伝
□にわか妃(仮)の宮廷奮闘記
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小さい頃の私の夢はお姫様になる事だった。
母さんが読み聞かせてくれた絵本に出てくるお姫様に、私はいつも憧れていたんだ。
夢のように綺麗なドレス。
毎日豪華なごちそうが食べられる。
舞踏会で素敵な王子様とダンスをして、それでもって結婚なんかしちゃったり……。
そういった事をよく空想してたっけ。
いつぞやは「どうしてお姫様に産んでくれなかったの?」なんて、父さんと母さんに突っかかった事もあったわ。
母さんはオロオロして困ってたし、父さんは「馬鹿な事を言う暇があったら花に水をやれ」って取り合ってくれなかった。
父さんの言うことは至極もっともだと思う。
あれこれと空想に浸ってもお腹が膨れるわけじゃない。
そんな事をする暇があったら仕事の手伝いをする方が、よっぽど現実的だもの。
成長していくにつれて私は「お姫様になりたい」なんて、不相応な空想はしなくなった。
まあ、“お姫様”という存在に対しての憧れは健在だったけれど……。
しっかし、そんな私がまさか本当に“お姫様”になっちゃうなんてねぇ。
世の中何があるか分からないわ、ホント。
正確にはお姫様じゃなくて、お妃様だけどね。
まあ、似たようなもんでしょ。
「……嬢、……ル嬢!」
そう、私はなんと一国の皇子様の花嫁候補なのだ。
しかもただの皇子様じゃなく、皇太子様が私の結婚相手。
つまり、ゆくゆくは国家元首の妻の座が待っている。
と、いっても私にとってはそんなのオマケみたいなもの。
大好きな人のお嫁さんになる事の方がよっぽど重要なのだ。
とはいえ、未来の皇后としての自覚と責任はしっかり持ちたいと思っている。
まあ、要は身分目当てで彼と結婚したいわけじゃないって事よ。
「……リル嬢! 聞いているのですか、シェリル嬢!」
「は、はいぃーっ!」
初老の女性にお尻を叩かれた衝撃で、私はビシッと姿勢を正す。
彼女は指先で眼鏡のズレをクイッと直すと、厳しい口調で叱りつける。
「この様子ではわたくしの話は聞こえていなかったようですね、シェリル・ウェンディオ嬢?」
はい、その通りです。
全く耳に入っていませんでした……。
「す、すみませんっ! つい考え事に夢中になってしまいまして!」
考え事に耽ると周囲が疎かになるのは、私の悪い癖だ。
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