聖皇女コーネリア 外伝

□あの頃はもう戻らない
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仲間の一人が所持金を数えている横で、偽の聖皇女候補――レイーネ――は黙々と食事の支度をしていた。
彼女は二人の仲間と共に偽の聖皇女候補一行を名乗り、村人や旅人を騙しては金品を要求している。

だが、それはレイーネが望んで行っているのではない。
仲間達に強要され、無理やり悪事の片棒を担がされているだけなのだ。

といっても、彼女が詐欺行為に荷担しているのは事実である。
レイーネ自身もそれを強く自覚しており、いつも自責の念を感じていた。

いつかは止めなくてはいけない。
いつかは止めさせなくてはならない。
そう、取り返しがつかなくなる前に――。

これまでレイーネは、何度か二仲間達を説得しようと試みてきたのである。
しかし、彼らは聞き入れようとはしなかった。
彼女も共犯、同じ穴の狢である事を強調してくる始末で、取り付く島もない。

「……ねえ、ラウル」

「くそ、金がもうこんだけしか残ってないじゃねぇかよ。ん? 何だよ、レイーネ」

ぶつくさ言いながら金を数えていた男――ラウル――はレイーネに声をかけられ、不機嫌そうに返事をした。
彼が三人の中でリーダー的役割を務めている。

もう一人の仲間テッドは薪を集めに行っているので、この場所にはいない。

「この間に行ったロデリア村の事なんだけど……」

ロデリア村。
レイーネらがつい最近、詐欺を行った村である。
かの村は魔物によって支配されており、村人達は随分と苦しめられていたようだ。

けれども、ラウルとテッドはそんな村の人々さえも騙してしまった。
聖皇女候補とその従者と偽るだけでなく、魔物退治を引き受けると嘘までついて――。

レイーネは未だにその事が引っかかっていた。

「ロデリア? ああ、あの辛気くせぇ村の事か。あの村がどうかしたのか?」

「思ったんだけど、やっぱあの時に魔物を退治しに行くべきだったんじゃ……」

村長から村の現状を聞かされた時、レイーネは心から同情し力になりたいと思っていた。

今みたいに詐欺に手を染めていなかった頃、彼女達は真っ当な魔物狩りだった。
それ故に、自分達ならばロデリア村の人々を苦しめる魔物を倒せると、そう考えたのである。

唐突にその旨を申し出た時、ラウルもテッドもはた迷惑そうな顔をしていた。


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