短編

□安倍の兄弟
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「家までもつかなこれ」
「無理なら神将の誰かを呼んで運んでもらえばいい」
「大丈夫かい?」

気遣ってくれる昌親に首肯を持って返すと、成明は重い足を何とか動かした。
とりあえず兄二人が一緒なので帰りに道端で倒れてもそのまま朝を迎える事はないのはありがたい。

「それにしてもお前がここまで体調を崩すなんて珍しいな」

成親の言葉に確かにそうだと頷く。幼いことは体も弱かったのだが、今となってはその反動からか病気らしい病気もしなくなった。
成親などは幼いころに一生分を使い果たしたのではないかと酒の席で言っていたほどだ。

「お、噂をすればお迎えだ」

成親の声に重い頭を持ち上げれば、風に乗った白虎と太裳が此方へとやってくる。瞬く間に地上に降り立った二人は成明の状態を見て表情を曇らせた。

「成親様、昌親様。成明様は我々が」
「頼んだよ、太裳」
「承知いたしました」

白虎のたくましい腕に抱え上げられた成明は全身の力を抜いて身を預けた。正直もう目を開けているのも辛い。しかし、風邪のような症状はなくただただ体全体が怠かった。そして胸の奥が妙に塞がったような感覚がある。

「成親たちも一緒に来い。晴明が呼んでいる」
「おじい様が?」

何か急用なのだろうかと視線を合わせる二人だったが、成明の息が上がりはじめていることに気が付きとにかく安倍邸に向かう事にした。

白虎の風はあっという間に安倍邸の庭に降り立った。すぐに成明を部屋へ連れて行くのかと思いきや、神将二人はそのまま晴明の部屋へと成明を抱えたまま進んでいく。
疑問に思いながらも成親と昌親もそれに倣う。

「晴明様、戻りました」
「おじい様、失礼しまします」

晴明の部屋にはすでに昌浩と物の怪の姿もあった。そこにさらに一気に五人もの人数が入ったのでさらに部屋に対する密度が高くなる。

「成明をわしの茵へ」
「はい」

何やら硬い面持ちの晴明に末弟の隣に座った兄二人も何事かが弟の身に起こっていることを察する。
茵に横たわる成明の様子を診ていた声明はすぐに状態を把握し、残りの孫へと視線を移した。

「おじい様、成明は……」
「すぐにどうこうということではないが、いささかまずいかの」

手で扇子をもて遊びながら晴明はついと六壬式盤を指し示す。そこに示された卦を読み説いた兄二人の顔色がさっと変わる。対する昌浩は式盤を読み解くことができずにすっかり口を曲げている。

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