短編
□赤の消失 青の虚空
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私は『赤』が嫌いだった。それは血の色。私の罪の色。愚かだった私の象徴。
そんなことをルークにもらした日から、何故か私の周りに『赤』が増え始めた。
「ジェイド!これ、食わないか?」
そう言ってルークはウサギ型に切った真っ赤なリンゴを差し出してきた。その指には包帯が巻かれ、切るのに苦戦しただろうことが窺えた。
「ジェイド!見ろよ、これ!きれいだろ?」
ルークは両手いっぱいに真っ赤な花を抱えてきた。手が泥だらけなのをみると、自分で摘んできたのかもしれない
うっかり「きれいですね」と言ったら満面の笑みを浮かべ、それ以来、私の執務室には立ち寄る度に赤い花が生けられるようになった
「ジェイドジェイド!これ、やる!」
包みを開ければ、そこには赤い石がはめ込まれたブレスレットが入れられていた。それは幸運のお守りらしく、日の光にキラキラと輝いていた
「なあ、ジェイド。きれいだな」
宿へ向かう途中、夕暮れに染まる町を見て、ルークは立ち止まる。つられて町に目を向ければ、人も建物も空も、すべてが赤く輝いていた
「・・・俺さ、この夕日の景色が一番好きだな」
ルークを見れば、優しい目で町を見ていた
「だってさ、夕日は全部を赤く染めてくれるから」
−−−−赤は、ジェイドと同じ、優しい色だからさ
そう言った彼は、もういない
赤の消失 青の虚空
この世で一番美しい赤は、私の中から消え去った
2009.10.16
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