定色

□七夕
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浴場に着いて、直ぐに露天風呂に向かった。

冷えた体をぬるめのお湯に沈める。

雨手は収まって時折雨粒が頬に当たる位だった。

ゆっくりと躯を伸ばす

暫くして、ふと微かに霊圧の揺らぎを感じてギンは訝しんだ。


あの雨の中だったから先客は居やへん思てたんやけど。


静かに霊圧を探れば意外にもそれは懐かしいもので、その偶然に大層驚いた。

同時に可笑しくなって来る。


流石七夕やな。天帝はんのお目零しやろか。


ふと見上げれば、月もとうに去った空は雨も上がって、雲の合間から見事な天の川が見え隠れしていた。


何時まで隠れてるつもりやろ


少しずつ雲が開け星明かりの増して行く空を眺めながら思う。

出るに出られんなったんやろか

喉の奥でクツクツ笑いながら、もう暫くだけこの状況を愉しむ事にした。




ぬるま湯の中でユラユラ力を抜いてたゆたっていると、眠くなってきて知らずうとうとして来る。


ガシッ

急に髪の毛を掴まれてギンは驚いて目を開けた。

天の川を背に柔らかなシルエットが目を射る。

彼女が近寄って来るとは思いもかけなかったから本当に驚いた。

「痛っ!そんな強く掴まんてもええやん。痛いて!」

恥ずかしさも手伝って大袈裟に騒ぐ。

「髪抜けるやん。総隊長みたくなるん嫌やし。やめてや」

「うるさい。いつまでもあぁしてたら上せるのよ。」

乱菊が怒りを含んだ低い声で言った。

仁王立ちの彼女の豊かな胸が今にも触れてきそうになって柄にもなくドギマギして後ずさった。

「いや。あんなァ。モシモシお嬢さん?前位隠したらどやろ。」


まる見えやし。目の毒や


「こんなに真っ暗なのに見えるわけないでしょ」

乱菊は少しだけ笑って隣の岩に腰かけた。

「はあ、相変わらず男前やね」

いや、ボク夜目はよう効くんやけど。


思いはしたが口には出さず体を湯にもう一度沈めた。

隣で彼女が足を交互に揺らしお湯を玩んでいる。


なんか気の効いた事言わんと。

けれども、余りにも長い間側にいなかったためか何も喋る事が思い浮かばなかった。


暫く二人無言で並んでいたが、ギンは慌てた自分がなんだか急に面白くなくなって、意地悪がしたくなった。

立ち上がって乱菊の肩を掴んで向かい合う。

ギンが急にそんな事をしたものだから、乱菊は驚いて目を見張る。それから微かに怯えて瞼を伏せた。

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