定色

□霜柱
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黙って彼の後を行く。地面が凍っている。

ザクザク音がした。

ひょいひょい飛び歩きながら彼が霜柱をつぶして歩いている。


「面白い?」

「ん。」


試しにやってみた。

さくさく音がする。

足の裏に奇妙な感覚。

壊して歩く。ゆっくりと創られたものを一気に壊す。

楽しかった。



夢中で跳ねていたら、水溜りが凍っていて、すべった。

思い切り転んで手をつく。

ひざが割れた氷の縁に当たってざっくりと切れていた。


ギンが走って私のところまで戻った。

怪我をした私の膝をじっと見つめて、それからかがんで、いきなり傷口に唇を沿わす。

私は驚いて口も利けなかった。

寒さでかじかんだ足からはほんの少ししか出血してなかったけれど、

彼はそっと傷をなめて、そのまま私を見上げた。



「ごめんな。」


彼の本当の顔。

久しぶりに見たせいで涙が溢れた。


「らん。」

嗚咽を堪えようとして喉がひくつく。


「乱菊。」

彼の手が頬を包む。


「...泣かんといて。」

彼が請う。


泣いてはだめ。

いつでもそう思って堪えてきたのに、

涙が止まらなかった。


冷たい雨がいつの間にか二人を濡らしていた。





その晩遅く彼は家を出た。もう帰ってこないとなんとなくわかった。


ねえ。どうして?

私が泣いたから?


流す涙は少しも残っていなかった。



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