定色

□未練
2ページ/4ページ




三番隊の執務室。

クリーニング店の袋が机の上に置いてある。

ギンは持ち上げて聞いた。

「何や。これ。」

「ああ、さっき、松本さんが来られて、お返しします。との事でした。何です。」

「いや、何でもない。」

吉良はまた、書類に目を戻した。

律儀やな。洗濯に出したんか。

思いながら、頬杖をついて眺める。


一昨日、たまたま立ち寄った馴染みの店で、潰れている乱菊を見つけたのだ。

立ち去ろうと思ったが、寒そうに袷をかき寄せながら眠っている彼女に、つい自分が着けていた肩掛けをかけて置いたのだった。

別に返してもらうつもりもなかったし、大体自分の物だと気付く事も無かろうと思っていた。


しもたな。
迂闊な事や。

舌打ちした。




帰宅して、寝床に横になって、それから、ふと、肩掛けを袋から出して顔の上に乗せてみた。

乱菊の匂いはしない。
洗剤の無機質な匂い。

なんだかがっかりして、退けて放りなげる。

なんや。ご褒美もないんかいな。

思ったら、急に苛々してきた。

一体なんなんや。自分。

腹が立つ。

誰が傷つこうが何とも思わなくなっている筈だった。

彼女ですら例外ではない。

むしろ、それを楽しんでいる自分ではなかったか。

ずっと昔に捨てた感傷ではなかったか。

どうにもならない感情が急激に昂ぶって、ギンは起き上がり、肩掛けを掴んで部屋を出た。


.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ