定色
□未練
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三番隊の執務室。
クリーニング店の袋が机の上に置いてある。
ギンは持ち上げて聞いた。
「何や。これ。」
「ああ、さっき、松本さんが来られて、お返しします。との事でした。何です。」
「いや、何でもない。」
吉良はまた、書類に目を戻した。
律儀やな。洗濯に出したんか。
思いながら、頬杖をついて眺める。
一昨日、たまたま立ち寄った馴染みの店で、潰れている乱菊を見つけたのだ。
立ち去ろうと思ったが、寒そうに袷をかき寄せながら眠っている彼女に、つい自分が着けていた肩掛けをかけて置いたのだった。
別に返してもらうつもりもなかったし、大体自分の物だと気付く事も無かろうと思っていた。
しもたな。
迂闊な事や。
舌打ちした。
帰宅して、寝床に横になって、それから、ふと、肩掛けを袋から出して顔の上に乗せてみた。
乱菊の匂いはしない。
洗剤の無機質な匂い。
なんだかがっかりして、退けて放りなげる。
なんや。ご褒美もないんかいな。
思ったら、急に苛々してきた。
一体なんなんや。自分。
腹が立つ。
誰が傷つこうが何とも思わなくなっている筈だった。
彼女ですら例外ではない。
むしろ、それを楽しんでいる自分ではなかったか。
ずっと昔に捨てた感傷ではなかったか。
どうにもならない感情が急激に昂ぶって、ギンは起き上がり、肩掛けを掴んで部屋を出た。
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