定色
□金木犀
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「ごめんね。」
乱菊が言う。
「食べ物買えなかったね。」
「かまへん。まだ、ちっとは何んかあるやろし。」
二人とぼとぼ戻る帰り道、あんなに揚がっていた気持ちはとうに落ち着いてしまっていて。
「お腹すいたね。」
「...ん」
ふいに清冽な濃厚な香りがして、それから、散り敷かれた朱の地面に気が付いて、上を見上げた。
「うわぁ。すごいね。」
大きな金木犀の木だった。
金色だね。彼女がつぶやく。
傾いた秋の陽に照らされて、光り輝いていた。
「なんか。偉そな感じやね。」
ボクは言う。
「なんでも持っとる。どうや!て言うたはるみたいや」
「そう?でも私は、秋ももうすぐ終わるよー。って言ってるみたいに見えるよ。ちゃんと今年の秋も楽しんだー?私は楽しんだよーっ。て、力いっぱい教えてくれてるみたいに思う。」
「なんや、乱菊もなーんも考えてへん様で哲学しとるんやな」
「失礼ね。私だっていろいろ考えてるもん。...あっギン!ギン!」
急に走り出す。
「これみて、栗!たくさん!」
へぇまだ残っとったんやな。運よかったなと思いながら、嬉しそうに必死で栗を拾っている乱菊を見ていた。
「早く!早く!いっぱいあるよ。」
狐の面が乱菊の首の後ろで揺れる。
なんだか、胸がちくちくした。
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