銀色
□慟哭
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満開の桜並木。賑やかに人が行き交う。
「やァ、元気そうやね。」
いきなり声を掛けられて、白哉は眉根を寄せた。
「こんな所で、奇遇やね。」
「兄こそどうした。このような所で。」
「ま、言うたら逢引やね。逢引。」
後ろで乱菊が、困惑してギンを睨んでいる。
「成る程。」
白哉は、吹雪く桜の木の下で少し眩しそうに目を細めた。
「なんや、朽木はんも連れがいやはるんかいな。」
ニヤニヤして、ギンが話しかける。
「兄の知るところではない。来い。緋真。」
身を翻した彼を慌てて追う、まだ少女と言ってもいい女性。彼女は申し訳なさそうに振り返り、頭を下げた。
「何をしている。行くぞ。」
「はい、白哉様。」
去っていく彼らを見送りながら、ギンはクスクス笑って、
「へぇ。あんな堅物でもお年頃は来るんやね。」
「もう、失礼よ。ギン」
「そやかて、なかなか別嬪さんやったで。今の女の子。」
「そうね。」
「ん。妬いとるの。乱。キミほどじゃないことわかっとるやろ。」
「何よ。そんな事言ってないし。もういいわよ。早く行こう。...でも、本当に可愛い人だったわね。とてもお似合いだったわ。」
「そうやね。とてもお似合いや。」
歩き始めた二人。嬉しそうに屋台等を覗きながら歩く乱菊は、先に行くギンの目に緋色がチラチラ奔っていた事には気がつかなかった。
........
「誰にも言うたらアカンよ。言うたら......」
うなされて、思わず声を上げていたようだ。はっとして緋真は目を覚ました。
何だろう。
久しぶりに見た夢に大きく息をついた。頭がズキズキする。
小さい時から見続けた夢。
燃える眼。亀裂のような口が嗤っている様に見える。
幼い時の記憶を失っている緋真にとって、これだけが今も残るものだ。何の事かも分からず、実際夢なんだろうと思うけれど、ずっと緋真を苛んできた。
白哉と会う様になってからは、余り見る事が無くなっていた夢。今頃またどうしてだろうかと訝しむ。薬師からは心の底にある不安が見せるものであろうと言われていたが、ただの幻とも思えずにため息を吐いた。
幼い頃に流魂街で拾われたというわが身。今は四楓院家の遠縁の下級貴族の屋敷で、その家の娘の遊び相手として住まわせて貰っていた。
拾われた時の記憶は無く、その後は四楓院家で居たらしいが、何故かその頃の記憶も無い。今、世話になっている屋敷には浦原とかと言う者が連れてきたとの事であった。
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