定色

□エンゲージリング
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昼間の騒ぎが嘘のように静かな夜だった。

窓から蒼い月の光が差し込んで、窓側で小さく寝息を立てているギンを照らしている。

かすかに光る銀の髪に縁取られた穏やかな顔を、不思議な気持で見つめた。

こんな日が訪れるなんて露ほども思っていなかった。

望んでいなかったかと言われれば嘘になる。むしろずっと希っていた。

左手を月明かりにかざす。

プラチナがゴールドを包み交差するように造られた指輪。

彼との永遠の誓いの標が柔らかに輝いた。

暫く眺めていた。

そして気がつく。

これは夢だ。きっと醒めてしまう。

私は恐怖で叫びだしそうになった。

その時、いきなり彼の筋張った細長い指が私の掌ごと掴んだ。

それから、くすりと喉の奥で一声笑って、私に覆い被さって来る。

右腕が足りない不完全な体で、不器用に私を包み込む。

「乱菊。」

甘い掠れ声が私を呼ぶ。

私はもう決して手放すことの無い様に、強くその広い背を抱きしめた。


...........



「なぁなぁ乱菊。これ、12番隊特製義手やて。結婚祝いにはちょぉ変わってんで。」

「ちょっと、あんまり変なもん着けると危ないわよ。」

「平気や。いくらなんでも命にかかわるようなもん寄越さへんやろ」

はは、夫婦生活には最適!な特別装備付やて。アホやな。

呟きながら、ギンは頓着せず装着を始めてしまった。

「ちょっ」

「うおっ。ちょっと見てみ。」

本物の手と見まがう程の出来だった。

ギンは感嘆しながら取説をめくる。

「ええと、...ひゃあ変形可能な指先やて。どないやの。へェ、ドリルや刃物にも変わるんや。便利なもんやな。精巧に出来てるで。ほんますごいなって...ちょっ、うわキモっ」

変な形になってぐにゅぐにゅ動く義手を見ながらお腹を抱えて笑うギンを、乱菊は何故か甘やかな気持ちになって眺めていた。こんなに屈託なく笑うギンを見たことがなかった。

が、

「...なァ、ちょっと試してみる?」

「調子にのんなよ。ゴルァ」

ギンの顔のど真ん中にぐーパンチがクリーンヒットしたのは言うまでもない事なのであった。





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