定色

□おおつごもり
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任務で現世に来ていた。

「んな時期になぁ」

普段ならば仕事納めも済まして一人ちびちびと取って置きの酒でも嗜んでいる筈だった。

「あ〜ァ、割り合わんわ」

ぶつぶつ文句を呟きながらギンは、罰当たりにも腰掛けていた鳥居から立ち上がった。

嵐が予想されて居るのにも関わらず案外人の出は多く、もう暫くすれば新しい年を迎える神社の境内は、賑やかながらも厳かな空気に満ちていた。

「確かにこんな所で虚に好きに暴れさす訳にゃいかんやろな」

ふぅと一息溜め息をついて上空を目指す。

「イズル。着いてきや」

「はい」

静かに傍で控えていた副官が後に続く。

刹那つむじ風が舞い上がって、道行く人が襟を抑え寒さをこらえ空を見上げた。

漆黒の空から雪の欠片が降りてくる。絶え間なく降る雪に赤い振袖の手を差し伸べる。

ボタン雪が手のひらの上でふうわり溶けた。


…………


「お待たせ」


歪んで震える空間に僅かに亀裂が入っている。


「ちっ。余計な事を。俺一人で充分だってのによ。」


天才少年と謳われる十番隊隊長が振り向きもせず呟く。


「!」

吉良が思わず柄に手を掛けたのを制してギンは陽気に声をかけた。

「まあまあ、元々この現場は十番隊サンには向かへんかったんやし。なんせ氷雪系やろ。この寒いのに皆さんにご迷惑や。そやし上が判断したんやろねェ」

からかう様に口角を上げる。


「なんだと。テメェ」


日番谷が鯉口を切って振り向いた時、空の亀裂が軋みを立てて広がった。


「さァ、いがみ合っとる場合ちゃうで」


「判ってる。先に行くぜ」

彼の副官が一瞬だけギンを見つめ、そうして蜂蜜色の髪を翻して上官の後に続いた。

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