定色

□血の匂い
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コトン


窓から微かな音がした。

昼間、実習があって事の外疲れていた乱菊は、空耳だろうと思って寝返りをうつ。


いきなり、何かがかぶさって来た。


「っ!」


唇が柔らかな冷たいモノに覆われる。


「っんーっ!」


必死で暴れたが退かす事が出来なくて、乱菊は怯えた。
体を動かす事が出来ない。

目を見開くと、開いた窓から差し込む月の光に、微かに銀色の髪が光った。


『ギン?』


手が、寝巻きの袷を開いて胸に触れた。


「!」


強く掴まれる。

冷たい唇が口元から首筋に移った。強く吸われる。


「ギン。」


体が動かない。


「ギン。止めて。怖い。」


荒々しく体をまさぐっていた手が急に止まった。

じっと見ている気配がする。



それから、力を緩めた彼が体重をそっと預けてきた。


「ギン。」


彼は何も言わず耳元に口づけた。

乱菊は戸惑ったけれど、拒む事はしなかった。そのまま知らず彼の髪を梳く。

暫くの間そうしていたけれど、急に心配になって、


「どうしたの。何かあったの。」


彼に聞いた。


ふと、微かな血の匂いがした。


「ギン!怪我してるの?血の匂いが...」



ギンははっとしたように体を起こして、暫くの間彼女を見て

それから、


パタン


音を立てて隣に寝転んだ。


「何でもあらへん。」

「でも。」

「何でもないんや。...堪忍な」


彼女は月明かりの中で彼の顔を見つめ、片手でそっと彼の頬に触れた。



ギンの姿をはっきり見たのは入学式の時位だった。すぐに彼は飛び級をして、そのままたった一年で卒院し、死神になった。

もう会う事はないかも知れないと思っていた。手の届かない人になったんだと諦めていた。

それなのに、いきなり現われて、しかもこんな事をされて本当に吃驚したけれど、でも、受入れている自分がいた。


そのまま二人は黙ったまま並んで寝転がっていたが、沈黙に耐えられなくなった彼女から声を掛けた。


「ギン。卒院おめでとう。」

「あァ。」

「何処の隊に配属になったの?」

「ん。五番隊や」

「楽しそう?」

「楽しい?」

「上司の人は優しそう?」


急に声を上げて彼が笑った。

クスクス笑い続ける。


暫くの間そうしていたけれど、


「まあまあやね。」


彼が答える。


「そっか。よかったね。」


ゆっくり起き上った彼は、乱菊に背を向けて窓から空を見上げた。

そして振り向いて微笑みかけて、何も言わず立ち去った。


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