定色

□流れ星
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東の空から、神話の勇者が昇ってくる頃。

新月の星空を背に、ボクは恋人の部屋へと急ぐ。

勇者が矢を放つように、流れ星が尾を引いて流れていた。

仕事が長引いて夜も更けてしまって、少しでも長い間傍に居たくて気がせいて、思わず瞬歩まで使ってしまう。

玄関の戸を開けて、ボクは了解も取らず家に上がった。

窓は開いていて、明かりを消した部屋で乱菊は一人座って星明りを頼りに酒を傾けている。

「なんや。無用心やな。」

黄色い猫が振り向いて、唸る。

「こそ泥ですか。留守ではないですよ。」

後ろから抱きしめる。

「居直り強盗ですか。」

「なんやの。つれないなァ。もう酔うとるの。」

「酔ってなんかないわよ。今日は流れ星がとても多い日らしいから、外を見てたの。」

「さよか。あァ、来てる途中にも流れてたわ。」

そう言いながら土産の酒を掲げると、なにかつまみでも用意するわねと、彼女は明かりをつけて立ち上がった。

「さすがにもう神無月は寒むなったわ。」ボクは窓を閉める。

ふたり座って、乱菊が色々なくだらない話をして、ボクは相槌をうちながら、酒を注ぐ。

いつもの大切な時間だった。


「ね。流れ星さっきより増えているかな。」

乱菊が窓を開けて、ボクは後ろに立って二人で空を見上げた。

「そうやね。夜半が一番や言うたはったから、さっきより流れとるかもなァ」

勇者はとうに天の一番高い場所まで上っていて、時折矢を射掛けてくる。

「なぁに。さっきは知らなかったような顔してたくせに、意地悪ね。」

そして、やっぱりギンは何でも知っているものね。と満足そうに呟いて体を預けて来た。

「あれ見て、オリオンの下から凄く綺麗な碧い星。なんだろ」

「シリウスいうんや。綺麗やな。キミの目の色みたいやね。」

彼女はくすぐったそうに微笑んで、

「じゃオリオンは貴方ね。私は三歩下がって付いていく出来た女よね。」

「ぶぶっ。出来てるかどうかは知らんけど。」

「失礼ね。この乱菊様をつかまえて。」

「ボクかて勇者いう柄やないし。あァボクあっちがいいわ。プレアデス。あそこには何人も女神がいるんやて。ハーレムや。」

乱菊はプッと頬を膨らませて体を離す。

「そうよね。ギンにはもっとお似合いの星がいっぱいあるわ。蛇使いとか。蛇使いとか、蛇..っ。」

「冷なったな。」

引き寄せて、腕でくるんで髪に口づけると、ボクを見上げながらクスクス笑って、柔らかな指で唇をなぞって、欲しいのは髪の毛なの?などと挑発するから、ボクはつい荒々しくキミの唇を貪った。


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