定色
□金木犀
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非番の朝、少し気温が低くなってきたのも手伝ってか、ぬくぬくと布団の中ですごしていたが、もうそろそろ起きなければならないかと、ふぅとため息をついて、彼は立ち上がった。
窓を開けると、昨日まではしなかった金木犀の香りが冷たい空気と共に部屋中に飛び込んできて、気が付けば微かに太鼓と笛の音が聞こえる。
窓枠に腰掛けて、高い澄んだ空を見上げながら、あァ、今日は秋祭りだったかと思い当たりはしたが、出かけるのも億劫だと、まだ、上げても無かった布団を足でいじくって遊ぶ。
祭りは嫌いではなかった。
むしろ、雑踏の中であれこれ思いながらそぞろ歩くのは好きだ。
連れを持たず一人、友達とじゃれあう子供たちや、家族連れ、若い二人連れなどを眺めていると、不思議と穏やかな気持ちになり快かった。
「うぅ、さぶっ」
さすがに、寝巻き一枚でいれば冷えてくる。
何か羽織るものでもなかったかと思ったが、未だに衣替えすらしていない部屋には、隊首羽織位しかない。
小さく舌打ちをして、もしかしたら行李に仕舞ってあったかもと思い立ち、押入れを開けてガサガサと探した。
コツン
小さな音がして、爪に何か当たる。
んーこの入れ物には衣類しか入っていないはずだったがと訝しく思い、何かと思って引き出してみた。
猫の面。
こんな所に仕舞いこんでいたのか。とうの昔に捨てていたと思っていたと、ギンはなんだか面はゆい気持ちになって、そのまま寝転んで、面を持ちあげてくるくる回す。
それは、あちこち傷んで、年月が過ぎたことを感じさせる。
あァ、あれから何十年も経ったのだとため息をついた。
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