空色
□囁く
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貴方が私の名を囁く。
眠ったフリをした私に
微やかな声。
甘く掠れた音色。
私を見つめる気配がする。
貴方が私の名を呼ぶ。
瞼の上。
心臓の上。
確かめる様に。
触れない貴方の体温を感じる。
私を起こそうとはしていない事は解っているから。
私は応えたいのを我慢して、
眠っているフリをする。
それは儀式。
貴方がもう帰ってしまうという。
引き止めたい。
けれども、そうしてしまえば
困らせてしまうのを知っているから。
あんなに辛そうな貴方の顔を、他に私は知らないから。
貴方が立ち去る音だけを
じっと聞いている。
せめて。貴方の広い背中を目に焼き付けさせて。
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