たんぺん

□電話越しにて
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彼は真面目だ。
成績も優秀で、常に学年のトップを飾っている。
何事にも几帳面で。
自分にも他人にも厳しい彼は、いつも一人で前を向いている。
そんな孤高の背中を晒していた。



その背中を抱きしめてやれるのは自分だけだと知った時は、イキそうな程興奮した。




※電話越しにて※




休み時間、携帯が鳴った。
彼からだ。
友人からさり気なく離れて、人気の無い階段の踊り場で通話を押した。

「…ミツ?」

『……タキ?』

「うん。どぉしたの?ミツ。」

ボソボソと内緒話をするように。
電話越しの相手が、彼だと誰にも知られたくないから。
しゃがみこんで、彼の声を一身に浴びる。

『今日、そっち行って良いか?』

不安げな光野の声に、興奮する。
目を閉じると真面目くさった顔が、泣きそうに歪んでいる光野の顔が浮かんで来た。

「だめ。」

『っ、タキ…滝、頼む。』

光野と滝が小学校からの幼なじみで家が隣同士だと、この学校の生徒は誰も知らない。
ただ学校が同じだっただけ。という認識が周りに植え付けられていた。

優等生の光野と、何かと問題ばかりを起こす滝との接点は、全く無いからだ。

『タキっ、明日模擬試験なんだ。』

知っている。
光野の事なら、彼よりも滝は知っていた。
ずっと見ていたからだ。

『頼むよ……震えが、止まらないんだ。』

光野は一見強そうに見えるけど、実はプレッシャーに死ぬ程弱い人間なのだ。
昔から、何か大事な事があるたびに緊張して手が震えていた。

『助けてくれ、タキ…っ。』

その度に滝は彼を優しく掻き抱いて、心配するなと震えが止まるまで囁くのだ。

小さく蹲る光野を胸に抱いて、いつの間にか広がった身長差は、彼を儚く繊細な生き物にさせていた。

「……ミツ…。」

『お前しか、いない。』

少し上擦った声。
泣きそうになっているのかもしれない。
こんな時程、特進科と普通科の教室の距離がもどかしいと思った事は無い。

遠すぎるのだ。距離も立場も。

「……ミツ…。」

それでも電話越しの彼は、滝を渇望している。
鳥肌が立つ程優越感を覚えるのだ。
光野に染めてもらった栗色の長い髪を弄る。

「いいよミツ。俺がミツんちに行くから。今日おばさん達居ないでしょ?」

心配しないでと囁くと、吐息が零れた。

『……タキ。』

「ご飯も作ってあげるし、一緒にお風呂にも入ろう?」

濡れた艶のある黒髪をドライヤーで乾かす時間が滝は密かに好きだった。
仏頂面の光野が、自分が作った料理を食べる瞬間だけ和らぐのを見るのも。

『……タキ。』

「その後、一緒に寝ようね?大丈夫だよミツ。俺がいるから。」

ベッドで震える光野の背中を、ゆっくりと撫でる。
大丈夫だと、心配ないと呪文の様に囁くのは甘い罠の様だ。

そうしてるうちに、自然と光野の震えは止まってやすらかに眠りについて。

その薄く開いた唇に、褒美とばかりにキスを掠め取るのを光野は知らない。

「だからミツ……ずっと俺を頼ってね。」

誰もが尊敬してやまない学年のトップが、自分にだけ頼って縋る。
自分が居ないと生きて行けないように。
小さい頃からずっと、光野には滝だけが存在している。

そうなるように隣に居たのだ。

『……タキ、待ってるぞ。』

「うん。なるべく早く行くから……待ってて、ミツ。」

安心しきった滝の電話越しの声に、うっそりと笑って囁いた。





彼は真面目だ。
成績も優秀で、常に学年のトップを飾っている。
何事にも几帳面で。
自分にも他人にも厳しい彼は、いつも一人で前を向いている。

(ふふ…ミツは俺のものだよ。……昔からね。)

そんな孤高の背中を抱きしめられるのは、自分だけ。

通話が終わってパクンと携帯を閉じた。
光野の顔を見たい衝動を堪えながら、滝は今夜のおかずを何にしようかと考えながら教室に戻って行った。



おわり
長編用に作ったネタを短編にダイエットしました。
続くかもしれないし、キャラ変えて新しくつくるかもしれない。
 

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