たんぺん
□風呂場にて
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「兄貴は一体おれをどうしたいんだ!!」
どうしたいも何も、ただ一緒に風呂に入ろうとしただけだぞ弟よ。
5歳も離れた弟の考えている事が、俺は未だによく理解出来ない。
※風呂場にて※
「……何が?」
湯船に浸かっている弟へ、ゆっくりと呟いた俺は。
「いきなり入って来ないでよっ。」
まぁ、いきなり入って来た俺も悪いと思うけど。
「……ごめん。でも何で顔隠してるんだ?」
そんなに実の兄の裸を見たくないのかと思う位。
俺が入って来た瞬間バチーンと両手で自分の顔を覆うその態度の方が、酷いんじゃないか?
「………何でもないよ。」
俺に不審がられていると思ったのか、弟はそろりそろりと指の間から視線を向けて来た。
と思ったらいきなりバッと顔を背ける。
どうしたんだ弟よ。
挙動不審きまわりない弟に、いささか動揺しながら入って良いかと聞いてみた。
「…後で入れば良いだろ?」
「ずぶ濡れになって帰って来た兄に対してその言い草はなんだ。」
バイトから帰る途中雨に降られて、冷えた体を温めたくて入った風呂には先客が居た。
別に弟だからついでに一緒に入ってしまえと扉を開けたけど。
「……じゃぁ、おれ今上がるから。」
何処かよそよそしい弟に、俺は困惑を隠しきれない。
昔は毎日一緒に入ってたんだけどなぁ。
お兄ちゃん一緒に入ってと腰辺りに回される小さな手を、しょうがないと苦笑しながら握り返してお風呂へ向ったのがつい最近のことに思える。
何時からか一人で入れると言われた時は結構なショックを味あわされた。
「待てよ、一緒に入ればいいだろ?」
「狭いだろ?」
「……そうかな?」
「そうだよ。」
ブクブクと顔の半分をお湯に静めながら、拗ねた様な顔で見詰める弟の仕草が昔と変わらなくて。
もう少しで背が越されそうな程成長した弟が、可愛く見える。
「お前も雨に濡れたんだろ?ちゃんと温まれ。」
濡れた手触りの良い髪をかき混ぜとと、不満げに睨まれて手を払われた。
子供扱いされたと思っているらしい。
「おれはもう温まった。」
「駄目だ。お前風邪引きやすいんだから。」