小説2
□第20話 月夜の営み
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紫苑「ふう」
一先ず、自分の分の御膳は完食した紫苑
まだ食べられない事もないが、この位で止めておこうと、ナプキンで口周りを拭く
周囲はまだガヤガヤと騒がしい
見ればクラスメイト達に混ざって、仲居の人達も談話に興じていた
そんな無礼講な光景に笑みを漏らして、口直しにお茶を飲む
そこに
亜里沙「お兄ちゃんっ」ダキッ
紫苑「っと…亜里沙?」
現れた亜里沙が右腕に抱き着いて来た
そのまま腕を抱えて
えへへー、と目を弓にして楽しそうに擦り寄っている
紫苑「相変わらず甘えん坊だね、亜里沙は」クスッ
亜里沙「だって!お兄ちゃんとくっつくのすっごい気持ちいいから!」ニコニコ
紫苑「………やれやれ」
呆れる声を吐きながらも引き離したりはしない
紫苑もこうして好意を形にされるのは悪い気分じゃなかった
紫苑「(………ん、そういえば)」
紫苑「亜里沙、少しだけ離れてもらえる?」
亜里沙「えっ?あ、うん…」スッ
少しばかり寂しそうに身を引き
紫苑の傍らで女の子座りになる亜里沙
紫苑はそんな亜里沙の姿を正面から凝視する
紫苑「……………んー…?」ジーッ
亜里沙「あ、あの……お兄、ちゃん…?/////」アセアセ
どうやら頭から腰辺りまでを見据えて
何かを考えている様子
その真剣な眼差しに亜里沙は身を捩って照れた
紫苑「……ちょっとごめんね、亜里沙」
亜里沙「え」
紫苑「ん…」ギュゥッ
亜里沙「Σひゃうぅぅっ!!?///////」ドキッ
紫苑は唐突に亜里沙の身体を掻き抱いた
その脈絡のなかった行為と突然の心地良さに甲高い悲鳴を上げてしまう亜里沙
本来の立った状態でのハグなら
亜里沙は紫苑の胸に顔を預ける事になるが
今は座ったままの抱擁なので、亜里沙の頭は紫苑の肩に埋められている
そして当の紫苑は亜里沙の首筋に意識を集中させていた
紫苑「……ん…やっぱり…」
亜里沙「は、はらしょー……///////」ドキドキ
何かを確かめたのか、紫苑は呟いて亜里沙を開放した
そしてまた亜里沙をじっと見つめる
紫苑「亜里沙、もしかして香水とか使ってる?」
亜里沙「……ふえっ?/////
う、ううん、使ってないけど……どうして…?/////」ドキドキ
紫苑「……あれっ……そうなのか…
じゃあ、絵里も?」クビカシゲ
亜里沙「うん。お姉ちゃん強い香りはあんまり好きじゃないから…
ど、どうしたの?
何か気になる事があるの?」
紫苑「ああ、まぁね…
………亜里沙、ちょっと一緒に来てくれる?
絵里の所まで」
亜里沙「んぅ?うん…?」コクン
亜里沙も紫苑が何を疑問に思っているのか知りたくて、とりあえず頷いた
そして二人は、対面の位置に座って
希達と談笑している絵里の元へ向かった
**************
希「………お?紫苑くん、亜里沙ちゃんもいらっしゃい」
にこ「二人一緒に来たのね」
亜里沙「はいっ」
見れば絵里達も食事を既に終えていたようで、今は専ら会話一色の様子
その輪の中に混じり、腰を下ろす二人
絵里「………紫苑?
どうしたの、難しい顔して…」
紫苑「………ごめん絵里。
……少しいいかな」ギュッ
絵里「Σひあっ…!?///////」ドキッ
全員「「Σ!!?」」
正面の絵里を先程同様、唐突に抱き締める紫苑
腰と背中に腕を絡ませ、出来る限り密着する
絵里「し、しし紫苑…!?////
え、な…ど、どうしたの…!?//////」カァアアア
いきなりハグされた絵里は案の定赤面し、焦る
先程まで二人で行っていた弄り合いを思い出して羞恥心が湧き上がってきていた
しかし紫苑はそんな事など露知らず
紫苑「…………んー…
ごめん、ありがとう」スッ
絵里「……あ……う、うん…」
あっさりと紫苑は抱擁を解いた
そして再び思案顔になる
希「珍しく強引な紫苑くんやったね。
えりち、何かしたん?」ニヤニヤ
絵里「しっ、してないっ……と、思うけど…////」
さっき胸元に口づけ合っていた事を示唆されたわけじゃないわよね…?
内心ビクつきながら、察しの良い親友の問いに返答する絵里
にこ「ハグ自体はもう見慣れたわねぇ…
そろそろちょっと違うのも見てみたいわ」フム
ツバサ「違うの?例えば?」キョトン
にこ「ハグ、キス、ディープキスと来たら……次はもちろん」ニヤリ
絵里「Σっだ、だめだめ!だめよそれはっ!//////
紫苑とのエッチはだめ!!
絶対見せられませんっ!!///////」アセアセ
にこ「まだ何も言ってないわよ、絵里ぃ?」ニヤニヤ
絵里「Σあっ……〜〜〜〜〜っまた私…ッ…///////」カァアアア
あんじゅ「絵里ちゃん、墓穴掘り過ぎね…
少し気の毒になってきたわ」クスクス
ツバサ「とか言いながら笑わないの、あんじゅ」ニガワライ
にこ「私はカクテルキス辺りを例に挙げようとしてたんだけど〜
そっか〜なるほどねぇ〜
絵里は紫苑とのエッチなのねぇ〜」ニヤニヤ
絵里「や、やめてぇ……///////」
にこの口撃に俯いていく絵里
自らの早とちりから起こった状況なので、どうにも収拾がつけ難い
紫苑「楽しそうなところ悪いんだけど、ちょっといい?」
その雰囲気を打ち破ったのは
今まで長考していた紫苑だった
亜里沙「お兄ちゃん?」
紫苑「今のハグも含めて…
前々から気になってた事があるんだけど…」
全員「「??」」
紫苑は随分前、初めて絵里を抱き締めた時から感じていた疑問を
遂に投げ掛けた
紫苑「絵里、それと亜里沙もだけど…
なんでそんなに良い匂いがするの?」クビカシゲ
……………
絵里「………えっ!?///////」カアッ
亜里沙「い、良い匂い…?///////」
紫苑「ああ。
ずっと思ってたんだ…
香水は付けてないって言うし、仮にヘアケアの効果だとしても、長時間は続かないだろう?
なのに、絵里や亜里沙の体は
いつ抱き締めても良い匂いがするのはどうしてかなって」
絵里「なっ…そんなことっ…聞かないでよっ…///////」カァアアア
紫苑「配慮に欠ける質問なのは承知してる。
だけど、気になって仕方ないんだ。
さっきだって、君と抱き合った時にも思ってた…」
絵里「っう……!///////」カァアアア
真剣そのものの視線にたじろぐ絵里
紫苑「絵里、教えてくれないかな。
どうして君達は、そんな甘い香りを漂わせてるのかを」
絵里「あ、甘いっ…!?///////」
いつにも増してグイグイと迫ってくる紫苑に絵里は心身共に押され気味
そしてそこに案の定、状況を面白がった介入者が口を挟んでくる
希「ふふん、じゃあウチが教えてあげよっか紫苑くん」
絵里「Σっ希!!///////」
紫苑「是非頼むよ、希」
希「はいな。
えりちの甘〜い香りの正体…!
それはっ!」
紫苑「それは…?」
にこ「………何故タメる…」
タメにタメて、希は言い放った
希「Σズバリ!!フェロモンやっ!!!」ビシィッ
紫苑「………えっ?
フェロモンって…あの、生物の内側から発せられるっていう…?
でも、確かフェロモンは無臭な筈…」
希「その通り、実際フェロモンって曖昧なモノらしいんよ。
人間はソレを色気や見た目で無意識的に感じ取る事があるみたいやけど…
今回の紫苑くんの場合は匂いやったって事やね。
おそらく、甘く感じたのはその時のえりちの態度や言動による効果やと思うよ」
紫苑「………そうか、そういうことか」
あんじゅ「お、思いの外マトモな解説ね」
希「あーっ、あんじゅちゃん、ウチがいつもおちゃらけてると思ったら大間違いやよ?」
ツバサ「……つまり
紫苑が感じた絵里の甘い香りは
絵里の仕草や気持ちがフェロモンとなって、溢れ出たモノ…という事ね?」
希「まあ、推測やけどそんな感じじゃない?」
絵里「………冷静に分析しないで…///////」カァアアア
紫苑「なるほどね……」スッ、ギュゥッ
絵里「Σっふあ……///////」ムギュッ
紫苑は再び隣の絵里を抱き寄せた
例によって首筋に顔を埋め、ソレを感じてみる
鼻孔を刺激してくる例え難い甘い匂い
誘惑されるように、絵里を抱く腕に力が入っていく
紫苑「どうりで……気持ちが盛りそうになるわけだ…
最近は特に顕著で……色々大変なんだよ」
絵里「い……いろいろ…って…?///////」ドキドキ
紫苑「………聞きたい?」クスッ
紫苑は絵里の了承を聞く前に、耳に口を付けた
紫苑「………抱きたい気持ちを抑えるのとか」ボソッ
絵里「Σ〜〜〜〜〜〜っ///////」ゾクゾクゾクッ
コケティッシュな囁きに身悶えしそうになる
そんな様子を楽しそうに見つめて、満足げに紫苑は放れた
亜里沙「お兄ちゃんっ、亜里沙も、亜里沙もっ」クイクイ
紫苑「はいはい、じゃあおいで」クスッ
承諾を聞くと、すぐさま紫苑の胸にダイブする亜里沙
心地良さそうに「〜♪」と胸板に頬擦りをする
絵里とは別の甘い香りを感じながら
後ろ髪を優しく撫でてやる
ツバサ「亜里沙……本当に気持ち良さそうね…
異性にハグなんてされた事無いから分からないけど…
そんなに心地良いの?」
亜里沙「はいっ!パパにされるのとは全然違ってて…
ん〜……なんて言えば……
………とろけそう?になるというか」
にこ「……確かに。
紫苑に抱き締められてる時の絵里の顔はフニャフニャになってるし」フム
絵里「みっ、見てたのっ!?///////」アセアセ
にこ「見えたの」
亜里沙「でもとにかく気持ちいいんです…/////
私もお姉ちゃんも、お兄ちゃんの抱っこは大好きですから…/////」ギューッ
紫苑「……嬉しい事言ってくれるね」ナデナデ
亜里沙「Σっふあぅ……っ///////
気持ちぃ…/////」トローン
絵里「……わ、私も、あんな表情になってるの…?///////」ドキドキ
希「うん、まさしくあんな感じやね」ニヤニヤ
絵里「………っ…!///////
じ、自重しようかしら……」
希「出来るん?
紫苑くんの幸福感溢れるハグを我慢するなんて事」
絵里「………………
……………ムリかも//」
スリスリと紫苑に甘える妹の姿を見て
それを自らに投射してみる
そしてそこから身を退く想像を重ねると…
あっという間に答えは出た
………やはりあの心地良さからは離れられそうにないわね…///
絵里「(後で私も目一杯してもらうんだからね?///////)」
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