【ただいま】

□晴れ間の中
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梅雨もそろそろ終わりを告げる頃になり、晴れ間の見える今日(コンニチ)。
古毛四(コケシ)はどこに行ったかは知らないが、多分その辺にいるんだろうとは思う。
そういえばこの前、海の方で爆発音がしたような…気のせいだな。


【ただいま】


今日は暇な日である。
晴れ間である今日、俺は飛行機を久しぶりに見に行く事にした。
たまにはメンテナンスも必要だし、雨でエンジンなどがやられているかもしれないし、第一、トシとの勝負以来、飛行機を見てないからだ。


『あー、うん。そうだよな』


予想はしていたが、やはり葉っぱやら砂やらが機体を覆っている。


『全然かまってなかったし、仕方ないか。…ナマモノとか触ってねえだろうな』


と、呟くとともに内心で祈りながら、機体に歩み寄る。
しかしまあ、見事に落書きされているじゃあないか。
パールホワイトだったはずがグレーへと変わり果て、磨かれていた筈の機体は傷だらけ…泣けてくる。
とりあえず機体の落書きくらいは消そうと、タオルでボディを拭いた。
昨日の雨で濡れている為、タオルを濡らす必要はなかった。


『うわあ…』


たった一拭き。
たったの一拭きでタオルは真っ黒だ。
ひどいもんだ。


『…はぁ……気が滅いるな…』


頭を掻いて、また拭き始めた。






















多分、1時間経ったくらいだろうか、大体の落書きはキレイに落ちていた。
俺はボディの下に潜り込んで、下に書かれている落書きを消している最中だ。


『何でこんなとこまで…』


悪態をついていると、足音がした。
生憎、飛行機の脚が死角を作り、その足音の人物もしくはナマモノの姿は見えない。


『誰だ?誰かいるのか?』


声をかけるが、返事がない。
おーいとか、なあとか声をかけても、やはり返事はなかった。
変だなと思い、機体を拭く手を休める。


『そこにいるのはわかってるんだぞーっと』


ナマモノだったらという事を考えて、軽い口調でそう言う。
だが、俺の声がそこにいるやつに届く事は、なかった。
俺の真上にある飛行機が、突然、崩れ落ちてきたからだ。
もちろん俺は逃げる事ができずに、飛行機という名の瓦礫の下敷きとなった。























しばらく意識が消えていたが、すぐに現実に引き戻された。
頭を打ったらしいが、幸い、血は出てない。


『…ッ』


しかし、脚を潰されたか…。
痛みで意識が飛びそうだ。
くそッ、誰だったんだ、あいつは……。
俺の飛行機を壊しやがってッツ。
腕の力で少しでも抜け出そうと体をよじらせると、腹部に電撃が走った。


『!……う、そ…だろ…』


腹に、機体の鉄骨が突き刺っている。
脚の痛みで腹に気がつかなかったのか…今更になって痛みが沸き上がってくる。
だからと言って、今ここで死ぬわけにはいかない。
とりあえず、誰かが来るまで堪えるんだ…。


「うわあ、アレクのヒコーキが壊れてるー」
「ほんとだー」


エグチくんとナカムラくんの声か…?
体が動かせられないせいで、声で誰かを判断するしかできない。


「あれ?アレクだあ」
「え?どこ?」
「ほら、ヒコーキの下」
「大変だ!助けなきゃッ」


二人がいるところからは俺が見えるのか。
二人が俺の顔を覗き込んだ。
予想してた通り、エグチくんとナカムラくんだった。


「大丈夫?」
『ああ…大丈夫だ…。それより…誰でもいい、大人を呼んで来てくれ……』
「うんッ、わかったッツ」


二人はそう言い、走って行った。
その間、俺はただ痛みを紛らすために別の事を考えていた。
しかし、とめどなく流れる血と、すっかり麻痺してしまい冷たく感じる脚によって意識は全て痛みへと向けられる。


『死ぬ…のか……?』


ふと、そんな事を呟いた。
いや、だめだ、諦めるな。
生きて、帰るんだ。
父さん達が待つ基地へ、俺が帰るのを待っている人達のいるところへ……。
しかし“死”という言葉が着々と俺に近づいているのがわかるし、すでに、体が冷えている。


『止まれよ…、血……』


そう呟いても、血は止まる事を知らない。
生暖かい液体が島の地面を汚し、俺の体から熱を奪う。
雨が降っていないのが幸いだ。

まだか、まだ誰も来ないのか…。
くそ…意識が……遠退いて…。


「……っ。…っ!」


誰だ?声が…微かに聞こえる……。
ああ…瓦礫が退けられていく。
けど、目が霞んで、誰かわからない。


「アレクっつ!!!」
『……ハーレム…か』


金色の髪が見えた。
次に、空に負けないくらいの綺麗な青。
もう、輪郭なんて見えない。
でも綺麗だな、と思う俺の脳は自分が思っているよりも冷静で、傷を負っているのは果たして自分なのかという錯覚にさえ陥る。


「血…お前ッ」
『なに…そんな、慌てて……ッ』
「喋るんじゃねえッ」
『お、俺…は大…丈夫だっ…つの…』


鉄骨が腹から抜かれる。
塞ぐものがなくなった傷口から、血が噴き出し、ハーレムの髪に汚らしい赤が付着する。
せっかくの綺麗な髪が…と思っていたが、体内から血液がどんどん失われていき、そんな事を考えるのさえ億劫に思えてくる。
死ぬってのはこんな感覚なのか、なんて事も考えてしまう。
なんだか、恐いな。
軍にいた時は何も思わなかったのにな…。
ハーレムは俺の傷口をきつく縛って止血すると、負担がかからない様にして俺を抱き上げた。


『ハ……レ…ム…。…もう、俺…の、事は…ほ…っと…け……。ど、うせ………』
「どうせとか言うんじゃねえッツ!てめぇは生きる事だけを考えてろッ」


無茶言うなよな…。
血……ありえねーくらい…出てんだから…。


『あ…のよ………パプワ…と、ロタロー……と…リキッド………そ、それから…み、んな……に…ごめ…ん……って…そう…伝…えて…く……れ………よ………』
「おいッツ、勝手に死にやがったら許さねえからなッツ!」


……お、い…おい…。
そ、の……こ…と、ば…は………。

ハーレムの声を最後に、俺の意識は糸が千切れた様にプツリと途絶えた。




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