【ただいま】
□熱の中
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いや、俺は元気ですけど、何か。
【ただいま】
ハーレムの野郎に湖へ投げ飛ばされてから1日が経った。
いや、数時間しか経ってないけどさ。
見事に風邪引きました!
「あ゙〜…。ズズッ」
『おら、ティッシュ』
「おう」
わかってくれただろうか。
風邪を引いたのは、俺じゃないんだ!
『何でお前が風邪引くんだよ。ハーレム』
「知るか」
普通、冷てえ湖に投げ捨てられた俺が風邪引くべきだろッ。
何で投げ捨てたハーレムがッ?
何とかは風邪引かないって言うのにッツ。
しかも、しかもだぞッツ!?
『40.5…』
はい。
高熱です。
「見間違えんじゃねえよ」
『どう見たら間違えるんだよ。バカでも読めるわ』
「隊長が高熱とは、天地がひっくり返るな」
「全くっすね〜」
「……」
マーカーの言葉にロッドが同意し、Gも無言で頷いた。
「てめえら減給」
元気じゃんよ、めっさ元気じゃんよ。
40.5℃なんて体温計の故障に決まってるッ。
「とりあえず、リッちゃん呼んでくるわ」
『俺が行こうか?』
「いんや、おにーさんが呼んでくるから大丈夫よ」
「ならば私も行こう」
『え、マーカーもかよ。Gは残ってくれるよな?』
「…………」
『え、ナニその沈黙。え、何、行くの?行っちゃうの?』
「………………すまん」
そう言い残し、そそくさと獅子舞ハウスから出て行った。
早い、早すぎてもう見えないんだけど。
「あいつら減給してやる」
『へーへー、わかったから。可愛い可愛いリキッドが来るまで寝てろよ』
「病人扱いすんな」
『いや、お前病人だから。風邪っつー誰にも逆らえねえ病にかかってんだからな』
「大袈裟に言うんじゃねえよ」
『はーいはい、わかったから寝てろって』
額に濡らしたタオルを乗せ、立ち上がる。
「どっか行くのか」
『あ?いや、違えよ、桶の水を替えるだけだ。すぐ戻るからおとなしーくしてろよな』
水の張ってある桶を持って、流しまで行く。
温くなった水を捨て、新しい水を同じくらいの量で入れる。
『大丈夫か?』
「おう…」
あれ?
なんか、しんなりしてるっつーか、げんなりしてるっつーか…。
『元気ですかーッツ!?』
「うっせえよ黙れ」
『あ、すまん』
だってお前がそんなに元気ないの初めて……うん、初めて見るし。
『それより、リキッド来るまで起きてるか?起きてんなら先に汗拭くけど』
「……いや、寝る」
『そうか』
そう相槌をした時には、ハーレムはすでに夢の世界へゴーイングアウェイしていた。
毛布をかけてやり、枕元に腰を下ろす。
『…まったく……』
おとなしく寝てりゃあ、モデルみてえな顔してんのに…。
って、何言ってんだか。
『寝てるんなら、ちょっくら出かけてくっかな。つーか遅いなあいつら』
よっこらせとジジ臭い声を発しながら立ち上がろうとすると、腰に巻いている軍服の裾に何かがひっかかった様な感覚がした。
足元を見れば、それはハーレムの手が俺の軍服を握っているだけだった。
放して欲しいけれど、さすがに病人を蹴るのはちょっと…。
と思ったが、腰に巻いているだけだから外せばいいだけじゃないかという何とも単純な答えに至り、縛っている袖を解いて立ち上がった。
『……すぐ戻る』
聞いてる筈もないが、俺は寝ているハーレムにそう言ってやり、その家から出た。
一旦パプワハウスに行ってみると、まあ見事なまでにマーカーとロッドとGはくつろいでいた。
ロタローとパプワの姿はない、きっと遊びに出かけたのだろう。
『てめぇら死ね』
「「「ごめんなさい」」」
てめぇらの上司が寝てるって時に何くつろいじゃってんの。
しかも俺に看病押し付けて。
「アレク。何かあったのか?」
『ん?ああ、ハーレムが熱出して寝てる』
リキッドの問いに答えると、リキッドは何故か否定した。
いや、ちゃんと寝てるから、40度の熱だから。
今時点しなってるから、しなしなだから。
『そーゆーわけで、リキッド君ッ!』
「スゲーやな予感」
『看病しに行きたまえッ』
「だろうと思ったよ。ったく」
仕方ねえなとブツブツ言いながらもお粥を作り始めるリキッドは、本当にいい母親になると思わせる後ろ姿を俺に見せてくれた。
『こんな奥さんが欲しいねぇ』
「てめぇ後で覚えてろ」
と言われた時にはおいしそうなお粥ができていた。
まさに3分クッキング……ではないがかなり早く出来上がった。
『よし、じゃあ行くぞ』
「なんだ、お前も行くのか」
『上着置いてきちまったんだよ』
アツアツのお粥が冷めない内にという事で、早めにハーレムの元に行った。
中に入ると、どうやら起きていたらしく、手に握っている俺の軍服を見つめていた。
俺が声をかけると、ハーレムはがっかりした様な声色でお前のかと言い、俺に軍服を投げた。
誰のだと期待してたんだよ。
『悪かったな、俺ので』
「そんなんじゃねえよ。で、何だそりゃあ」
「お粥っす。隊長が風邪引いたって、アレクから聞いて」
「おう、気が利くじゃねぇか」
(何がしなしなだよ、元気じゃねぇか)
(いやだって、さっきまでほんとに寝てたんだよ)
「リキッド!」
「な、何すか」
「酒」
バカかあんたは。
『酒はなしだ。…あ、卵酒なら大丈夫か?』
「じゃあ俺が作ってくるッ」
『てめえはただ逃げたいだけだろうがよッ。ちょ待てよ』
キムタク風に言ってみたが、リキッドは爽やかな笑顔を俺に向けて高速で逃げた。
あとで覚えとけは俺のセリフじゃねえかよ。
「…おい、アレク」
『どうした?』
「それ……食わせてくんねえか?」
…………え?
今食わせてくれって聞こえたんだけど、聞き間違いかな。
いや、聞き間違いじゃないよな。
…よく見たらすごくだるそうじゃん。
『見栄張ってどうすんだよ、バーカ』
「うっせえ」
ハーレムの枕元に座ってお粥をスプーンで掬い、息を吹きかけて熱を冷ます。
『ほら、口開けろ』
「…今お前、まじで女っぽかった」
『ちょっと黙ろうか』
無理やり口の中にお粥を突っ込む。
しかし、器の半分も食べない内にハーレムはいらないと言い、枕に頭を預けた。
やはり獅子舞とはいえ病には勝てないらしく、いつもよりやや弱っている印象を受ける。
『大丈夫か?寒いとか、何でもいいから何かあったらすぐに言えよ?』
「……アレク、お前、ガキの頃って憶えてるか?」
『は?高熱で頭沸いたか?』
「いいから答えろ」
いや、ええー。
何でそんな事………まさか。
『走馬灯ッツツ!!!?死ぬのかッ?』
「違え。何でそうなんだよ」
『いや、だって…いきなりそんな事言い出すとは思わなくてよ』
しかもハーレムの口から。
やはり頭がおかしい…というのは失礼だが、いつもと違う。
『小さい頃か…あんま憶えてねえな』
「…そうか」
『お前は?…あ、やっぱりいいわ』
「何でだよ」
『そろそろボケて思い出せねえだブ』
「そこまで老いぼれてねえ」
枕投げる元気はあんのかよ…。
父さんより年上だからちょっとからかっただけじゃないか。
『って、おい?どうした?……寝たのか…』
の○太並の速さだなおい。
しかし寒いのか、体が震えている。
……仕方ない、と心で呟き、ハーレムの入っている毛布の中に潜り込んだ。
反射的にハーレムの腕が俺の背中に回り、俺はその巨躯に包まれた。
襟からさらけ出された肌が近い。
ハーレムの寝息が俺の髪にかかる。
…激しい運動をしたわけでもないのに、自分の心臓の音が大きく感じる。
なんか…変な気持ちだ。
腕のやり場に困り、これが一番しっくりくるだろうとハーレムの背中に腕を回した。
あったかいな……そう思いながら、俺は目を閉じた。
「リッちゃん、中に入んないの?」
「入ったらいけない雰囲気なんだけど…」
「……その様だな」
「……………」