【ただいま】

□甘い香りの中
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甘い香りが鼻をくすぐる。
吐き気を催すくらいに、甘ったるい匂い。



【ただいま】



2月14日…女の子が意中の人にチョコレートを渡す日だ。

そんな日のパプワハウスのテーブルの上には、プロが作った様なチョコレートケーキが置いてあった。


「わーい!オヤツオヤツ」
「わうv わうv」
「わぁ〜v すッごく綺麗なチョコレートケーキだね」
『わお。ちみっ子が好きそうなケーキだな』


みんな出だしの言葉が「わ」だ。
さて、リキッドは…。


「ヘッヘー!フランス菓子の“シャルロット・オ・ショコラ”だぜ」


ああ、「わ」じゃなかった。
でもいいや。あんま期待してなかったし。


「今日は2月14日だからバレンタインの特別デザートさ!」
「気持ちはありがたくいただくがオマエは僕の好みじゃない」
「僕も貧乏はごめんだよ」


哀れリキッド。
ちみっ子たちにそこまで言われるとは。


『安心しろ。俺もリキッドは友達かお母さんとしか見てないぞ☆』
「深読みせんでいい!つか、お母さんてオイ!」


とリキッドが言った時、エグチ君とナカムラ君が来た。


「やーほー!パプワくーん」
「おお!エグチくんナカムラくん」


リキッドが2人にケーキを差し出すと、それにかぶりつく。
可愛いな、おい。

俺も自分の皿に用意されたそれを口に運ぶ。


『ん…。甘くないんだな』
「お前、甘いの好きじゃないって言ってただろ?だからお前のだけ甘さを控えたんだ。うまいか?」
『うん。うまい』


こーゆー事ちゃんと気にしてくれてるんだな…。
いい母親になれるよ。


「そう言えば、アレクもチョコレート作ってたよね?」


ロタローが口に端にチョコを付けたまま、そう聞いてきた。

俺は昨日、ロタロー達が寝たであろう時間にチョコを作ったのだ。


『ん?ああ、作ったよ。ほら、これな』
「わーいv」
『ほら、リキッドにも』
「え?俺も?」
『全員分作ったんだ。つー事でちょっと配りに行ってくる』


俺はチョコレートの入った袋を担いで、外へ出かけた。

まずは心戦組の家に……。


『こんにちゔあ゙ッ』


目の前には茶色い何かしらのエキス。
ツンとした臭いがする。


『な、なんだこれ?』
「ウマ子の煮こごりなんだが…」

『うは〜…。愛だね』
「それより、何か用ですか?」
「決まってるだろソージ!わしにチョコ「アレクさんがアンタにくれるわけないでしょ」」


沖田さんは近藤さんに刀を突き刺した。


「僕にはくれますよね?」
『ああ。あと、ウマ子とトシにも渡しておいてよ。ついでにそこのオッサンにも』
「分かりました〜。おっさんの分は僕が食べておきますよ」
『…ちゃんと渡しといてくれよ?』


次に寄ったのは、そのお隣。
獅子舞様のお家だ。


『こんにち「あ、やっぱり来てくれたんだ〜v」』


半裸のお兄さん登場。
しかも、いきなりハグという見事な歓迎をしてくれやがる。
…この家の中にはこいつしかいなかった。


「それってチョコ?俺らの分はあるの?てか、くれる?」
『やるから放せ』


ロッドが俺から離れて、俺は袋の中から4つのチョコを出す。


『これ、渡しといてくれよ』
「あれ?みんな一緒なの?」
『別々に作ってたらキリねえだろうがよ』
「そりゃそうだけどね。ほら、今日って隊長の誕生日じゃん?だから別に作ったのかなって」
『え?そうなのか?』
「あ、知らなかった?」


知らなかった?って、聞いてもねえのに知ってるわけねえだろ。


『で、あいつ何歳になんの?』
「47」


わあ、衝撃的。
何あの元気さ。


『………ちょっとショックだ』
「それ、隊長に言ったら?」
『殺されるわ。あ、まだ配りに行ってねーとこあるから、またな』
「ん。ばいば〜いv」


手を振るロッドと別れて、俺は森の中へ行く。

そこで出会ったのは、イトウとタンノ。
2人がチョコを咥えて迫ってきたのでそれをあいつらの口に押し込む。
そしてすぐそこにチョコレートを置いてほかのところへ行った。

エグチくんとナカムラくんにも出会い、彼らにもチョコを渡した。

最後に玄関に飾ってあるコケシに供えておいた。
そのころには、リキッドたちは森から帰ってきていた。
カカオを籠にいっぱい積んでいる。


「もう配ってきたのか?」
『おう』
「じゃあ、これからパーティ開こうと思ってっから、みんな呼んできてくれないか?」
『ん、任されよう』


と言って、島中のみんなを誘ってみれば、家の周りはチョコレートの香りでいっぱいだった。


「いっぱい呼んできたね」
『島の全員呼んできたからな』
「うん。猛毒キノコがいる時点でそれは分かったよ」

『お、リキッドがいっぱいチョコレート持ってきたぞ。早く行かないと食べ損ねるぞー』
「あ、ホントだ!」


ロタローはそのチョコのもとへ走っていく。
俺は飛行機から持って来た酒を取り出して、それを飲んだ。


「お前はアレ食いに行かねえのか?」
『ん?』


顔を上げてみれば、ハーレムが隣にいた。
俺と同じように片手に酒を持っている。


『甘いのはあんまり好きじゃないんだ』
「ここに来る前はけっこう貰ってたんだろ」
『いや、別に…。けど貰ったものは食べたよ。次の日には吐いたけどな』


苦笑いをして酒を口に運んだ。


『そう言えばハーレム、お前…今日、誕生日なんだって?』
「あ?誰から聞いたんだよ?」
『ロッドが言ってた。何も用意してなかったから、プレゼントはチョコでいいか?』


と、一つ差し出す。


『自分で食べようと作ったから全然甘くねえし、酒入れたやつだけど…』


俺が言い終わる前にハーレムは口にチョコを入れた。


「うめぇ」
『ならいいや』
「毎日作れよ」
『無理だ』


そう言って、俺は酒を飲み干す。


『おめでとう』
「ケッ。めでたくもねーよ」

『歳が歳だからな…』
「あ?なんか言ったか?」
『いえ、ナンニモ』




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