【ただいま】
□火花散る中
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戦って、傷つけて、
前はそれが当たり前だった。
【ただいま】
パプワ達は朝から遊びに、リキッドは食料を調達しにと、みんな森へ行った。
暇になった俺は、久しぶりに飛行機の様子を見にいっていた。
『うわあ、埃がすご…ドゥヘッ』
むせた。
『くっそ〜…。毛布臭うな…干すか』
毛布を中から出して、翼に乗せて干す。
今日はいい天気だから、毛布もいいにおいになるだろう。
エンジンの様子を見てみる。
特に異常はなかったから飛行機から降りる。
それから腰に下げているナイフを研ぐために家に戻った。
研ぎ石と水を準備して机の上に置いた後、ナイフを研ぐ。
『ふふーふ〜ん…♪』
ロッ○ーのテーマソングを鼻歌で歌いながらナイフを研いでいると、後ろから殺気を感じた。
刀を抜く音がかすかに聞こえる。
この殺気は、土方さんかな?
サプライズは受け付けてないよー。
そう思いながら、俺はナイフを研ぎ続けた。
ヒュッと刀を振る音が聞こえ、俺は研ぎ終わっていないナイフで防御した。
「ちっ」
舌打ちが聞こえたあと、刀がひいた。
俺は振り返って、土方さんに問うた。
『どーゆーつもりだよ?』
「テメーが夜叉だと思えなくてな。試させてもらった」
『人の命に無料お試しはないんだぞ。そこんとこ事前に確認しとけよな』
俺はまたナイフを研ぐ。
すると、首筋に冷たい刀身が当たった。
「真剣勝負やらねえか」
俺はそれを断った。
即答でだ。
「昼、ホシウミ湖の近くだ」
……俺はちゃんと断った。
『陽が西から昇って北を通過してから東に沈んだら行くよ』
軽く流しながら、ナイフを研ぐ。
土方さんはすぐに出ていった。
昼になり、リキッド達が帰ってきた。
俺はナイフを鞘に収め、リキッドが作った昼ごはんを食べた。
「あ、そうだ。アレク」
『ん?どした?』
「さっきね、土方さんが待ってるから来いって言ってたよ」
『えー、やだー』
「来るまでずっといるとも言ってたぞ」
『え゙。…しょうがない……。行くか』
俺は昼ごはんをさっさと口の中に入れて、ホシウミ湖まで向かった。
そこに、奴は居た。
『おーい』
俺は手を振りながら、土方さんの近くまで行く。
「ほら」
渡されたのは、鞘に収まっている刀。
それを受け取る。
『え。これでやんの?』
真剣だ。
いや、マジで。
「真剣だっつっただろ」
ガチで勝負って意味じゃなくですか…。
『刀はなァ…使ったことねえから、今持ってるナイフでいいか?』
「なんでもいい」
ナイフを鞘から抜いて、構える。
「がんばれー」
「怪我しないでねー」
『……………』
さっきまで昼メシを食ってたちみっ子の声が聞こえるのは気のせいか?
後ろを振り向けば、そこにはちみっ子がいた。
『何で来てんだよッ。メシ食ってたんじゃなかったのか?』
「アレクのかっこいいところ見たいと思ってな」
「それに、みんな来てるよ」
『みんなァ?』
周りを見ればナマモノだらけだった。
「「トシ様〜v アレク〜v 頑張ってェ〜〜vv」」
「がんばってねー」
「酒の肴にさせてもらうぜ〜」
「トシー!手加減するんじゃぞー!!」
「アレクさ〜ん。死なないで下さいね〜」
「俺がちゃんと見守ってるからね〜んvv」
「終わったらオヤツが待ってるぞー」
『…なんじゃコリャ』
と苦笑しながら、土方さんの方を向く。
『勝負はどっちかがまいったって言うまでだろ?』
「それか死ぬまでだな」
『冗談よせやい』
腰に巻いている上着を地面に置いて、長ったらしい髪を縛った。
『手加減は無しでいいか?』
「当たり前だろ」
『負けた時に、手加減してやったって言い訳は無しな。めんどくさいから』
「ハッ。それはこっちのセリフだ」
俺は目を閉じて深呼吸をしてから、ゆっくりと目を開いた。
2人は睨みあったまま、動かなかった。
風の音だけが聞こえる、そんな静かな空気がその間を包んだ。
いつもは見ることのないアレクの真剣な顔に、ロタロー達は息をのむ。
先に動いたのは、土方だった。
アレクは自分に向かってきた刀をナイフで防ぐ。
金属音が響いた。
『くッ…』
アレクがやや押され気味だった。
アレクはナイフを横にずらして刀をはじき、間合いを取った。
両者とも、一瞬の隙も見せない。
お互いが隙を探り合っている。
一瞬、アレクが隙を見せてしまった。
その瞬間を逃さず、土方はアレクに斬りかかった。
それを寸でのところで止め、土方の腹を思い切り蹴り飛ばした。
「ガハッ」
吹ッ飛ばされた土方は体勢を整えて構える。
その動作をする前に、アレクは土方に斬りかかる。
また、2人は激しく刃をぶつけ合った。
火花が散り、金属音が止まない。
「アレクってやっぱ強かったんだ〜」
「…そのようだな」
「いつもの様子を見ているとそうとは思えんが…」
『んだとぉマーカー!』
「よそ見をしていると足元をすくわれるぞ」
『うっせッ!…うお!!』
アレクは土方の太刀を避け、間合いを取った。
『マーカーっ!お前のせいで服が斬れそうだったじゃねーか!』
「お前がよそ見するからだ」
「そういうこった!!」
土方がアレクに攻撃する。
それを止め、アレクは顔をしかめる。
2人は火花を散らしながら、手を止めない。
ガキィン!
と音がした。
土方の手から、刀が弾き飛ばされたのだ。
アレクがナイフを振り上げた。
《 》
『ッツ!?』
アレクの手からナイフが落ちた。
ガクッと膝が折れ、地面に倒れた。
「アレク!?」
みんなが飛び出した。
アレクは手をついて唖然としていた。
『…………は?』
(何だ?今の声…)
「大丈夫〜?」
ロタローがアレクの顔を覗き込んだ。
アレクはロタローの心配そうな顔を見て、大丈夫だと答えた。
『…運動不足なんだな。きっと』
アレクはゆっくりと立ち上がって、落としたナイフを拾った。
『まいった。もう動けねえ』
アレクはそう言って、ナイフを収めた。
「…俺も動けねえよ」
土方は少し笑って、刀を鞘にしまった。
ナマモノ達は次々に帰って行く。
最後にそこに残っていたのは、アレクと土方だけだった。
「お前、本気出してなかっただろ」
土方はアレクに言った。
『本気に決まってんだろ。何言ってんだよ』
アレクは上着を拾って、髪を縛っていた紐をほどく。
「あの時はこんなもんじゃなかった。……俺らのほとんどが、お前1人にやられた」
土方は、アレクのいる軍と戦った時の事を言っているらしい。
『それは…ほら、今は敵じゃなくて、友達?じゃん。殺し合ってどうすんのさ』
土方に笑顔を向けた。
その笑顔の奥には寂しそうな表情が見えた。
土方はアレクのその表情を見逃さなかった。
『さて、リキッドの作ってくれたオヤツでも食べに帰ろうかな』
アレクは頭の後ろに腕をまわして、歩いて行く。
『土方さんも一緒にどうだ?疲れてる時は甘いモンがいいって聞いたぜ?』
振り返って、土方に問いかける。
その時には、もういつもの笑顔だった。
「…ああ」
土方はそう言って、ゆっくりと立ち上がった。
『あ、そうだ。土方さんじゃなくてトシって呼んでもいいか?さん付けすんのめんどくせえし』
「その方が楽でいい」
そっか。と笑って、パプワハウスに歩いていく。
「あいつ、あんな顔すんのか…」
土方は煙草をふかしながらアレクのあとについて行った。