【ただいま】

□海の中
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決して触れてはならないって、言われなきゃ触っちまうだろうがよ。



【ただいま】



今日は、何もない日。
ちみっ子たちは外で昆虫を取りに行った。
リキッドは朝ごはんを調理中。
俺は……。


『がんばれー。フリフリエプロンのリキッド君』
「手伝えよ」
『え?一度も包丁持ったことねェけどいいの?』
「手伝わないで下さい」


もちろん、嘘だ。
だけど、めんどくさいじゃない。
とゆー事で俺はリキッドの料理する後姿を見守っていた。
丁度その時、ちみっ子たちが帰ってきた。


「帰ったぞー。リキッド!アレク!」
「昆虫採集行ってきたよーv」
「ヘイヘイ。ちみっ子は早朝から元気だね―――」
『うおーッ、すっげーな!見ろよリキッド!!』
「そりゃー良かっ……」


巨大なイナゴだ。
リキッドはそれを見た瞬間につくだ煮にしてしまった。


「さァこのつくだ煮を喰えッツ」


それに対してちみっ子は猛反対する。


『…俺は貰おうかな。虫喰ったことないし』
「うん…。お前だけが俺の味方……」


俺はイナゴに箸を進めていく。
ちみっ子とリキッドは普通なご飯を喰っていた。


『イナゴおいすぃー。筋ばっててカルシウム豊富だー。肝のところなんかグチャグチャで最高ー』
「無理しなくてもいいよ。アレク」


朝食を食べ終わり、俺らは海まで行った。
リキッドが海に行こうと言ったからだ。


「なんで僕らが釣りしなきゃいけないのー」


ロタローは釣竿を、パプワはモリを持っていた。


「海風はお肌が荒れるからヤダー!」
「紫外線も大敵だぞ」
『俺も日焼けしたくない』
「おだまんなさいピチピチボーイズ。つーかアレクはお前、長袖着てんじゃねーかよ」
『黙らっしゃい』

「とにかく、オマエらは食べ物を粗末にしすぎなんじゃッツ」


食事のありがたさを知るためにオカズを釣れ…という事らしい。
リキッドがそう言った途端、パプワとチャッピーがリキッドを縄で縛った。
そして、海に突き落とす。


「大きいのくわえてこいよー」
「呑み込んでも消化しちゃダメだよ!」
『量より質だぞー』
「貴様らーッ。俺じゃなくて自分の体を使わんかーッツ」


リキッドがそう言えば、パプワがとてつもなく大きな岩を持ちあげる。


「スッキリと潜らせていただきます」


リキッドはさっさと潜ってしまった。





30分後。
リキッドは大量の魚たちをつれて上がってきた。

デカイ真珠があったといえば、ロタローはリキッドを潜らせる。


『俺も潜ってくるわ。すぐに戻るから』


上着を脱いで、海に飛び込む。


『ふーん。やっぱり海ん中って綺麗なんだな…』


あ、そーいやあ、真珠の場所聞いてなかった。
その辺潜ればあるかな。


「やだァv アレクじゃない。泳ぐ姿もステキv」
『ああ、タンノか。なあ、デッカイ真珠がどのあたりにあるか知らねえか?』
「真珠?それならあっちにあったわよ」
『そうか。ありがとな』


タンノが指した方へ泳いで行くと、でっかい貝があった。
それを見てみると、何とも言い難いものも一緒にいた。


『………』


どうしようかな…。
なんて声かければいいんだろう。

そこにいたのは、縄で縛られて正座をしているラッコ。
しかも、貝の舌の上でだ。


「あの、もし…」
『ぉおおう!?あ、ああ!な、なんだ?何か用か!!?』
「私、オショウダニと申します。特技ドラム」
『あー。分かった分かった。何となく分かったから。何も喋らなくていい。つーか喋るな』


と言ったのにもかかわらず、このオショウダニは語り始めた。


「―――というわけです」
『へー、そう』


それにしても、デカイ真珠だな……。


『ロタロー達に持ってってやれば喜ぶかな…』
「喜ぶと思います。ぜひ取って下さい」


俺は真珠に触れる。
すると、俺の視界が一瞬にして変わった。

貝の中にいるのだ。
しかも正座させられている。
さっきのラッコのように。


『…オショウダニ』
「む!」
『どーゆーつもりだ』
「助けていただき誠にありがたい」
『待て待て待て。俺はお前みたいに何時間も潜れるわけじゃねえんだよ』
「…その時はその時……」
『お゙い』
「………………」


脅してみたらオショウダニは颯爽と逃げていった。


『……真珠だけでも出せないかな〜。あいつらも触ったらこうなっちまうわけだし…』


子供にこんな惨めな思いだけはさせたくねーしなぁ…。
つーか、何で正座なんだよ。
俺のプライドがズッタズタに引き裂かれたよ。








2時間後。
俺の息はまだまだ続くぜ、ベイベー☆
…って、今の俺ってかなりイタイな…。

でも、海ん中って暇だし…。
どーせならもっと楽しい事とかねえかな〜。

人魚とか竜宮城とかいろいろ無ぇのかよ。


「あ、アレク!どうしちゃったの!?」
『ロタロー、パプワ、チャッピー!』


俺が暇を持て余していると、そこへ泳いできたのはちみっ子たちだった。


『…何だそのセンスのねえ潜水服』
「これは気にしないで。それより、これはどーゆーことなの?」
『語られてチェンジでラッコ逃げて俺こう、みたいな』
「もっと分かりやすく説明して欲しいんだけど」


俺はさっきのことを詳しく説明する。


「ふ〜ん…そっか」
『そうなんだよ。だから真珠に触るなよ。こんな惨めな姿になっちまうから』
「うん。でも…売ったら高そうだよね…」


そこへ、タンノが超スピードで泳いできた。


「やだッ!アレク〜!」
『どうしたんだよ?タンノ』
「それは一度触れたら誰かが触れるまで離れない“呪いの真珠”なのよッ!」
『…マジっすか』


二度と離れられないのか…じゃあ溺死だな。


『溺死ってのはあんまり誇れないなァ…』
「そんな呑気な事言ってる場合じゃないよ!アレクはパプワくんみたいにずっと潜れるわけじゃないし、潜水スーツ着て無いじゃんッ」
『小魚がつついてくれるのを待つ根性はあるさ』


ハハハ、と軽く笑ってみれば、ロタローの目に涙が浮かんだ。


「でも、もしだよ?もし…誰も来なくて、アレクが死んじゃったら?」
『意地でも抜け出すから、心配すんなって』


手を伸ばして、ロタローの頭に触れる。


『ちゃんと戻るからさ、泣くなよ』
「僕が代わるから大丈夫だぞ」
「パプワくん!パプワくんが代わるなら僕が――…」
『馬鹿!俺はお前らがこうなるくらいなら、俺はこのままでいい!!』


ピキッ

と、真珠にひびが入った。
そして、真珠が砕け散った。


「真珠が……」
「砕け散ったぞ」


俺は立ち上がって、貝から降りる。
貝がいきなり立ち上がった。


「いーもん見せてもろた。坊ちゃん達の純粋さとあんちゃんのこの子らを想う心に、おいちゃんノックアウトや!」
『うわあ、貝がオッサンになった…』


腹巻きに股引っておい。
典型的だなァ…。


「わいも心入れかえてタニシのように真水で生きるわ。ほなサイナラっつつ!!!」


そう言い残して、貝のオッサンは貝らしい泳ぎ方で行ってしまった。


『…真珠、割れちまったな。持って帰ろうかと思ったのに』
「別にいいよ。真珠なんていらないもん」


ロタローはそういって、さっさと岸に戻っていく。
パプワとチャッピーも行ってしまった。

ほんの少し、欲しかったと言いたそうな目をしたのは、見なかった事にしよう。


『…子供は素直じゃないな』


その頃、リキッドは海面で青くなっていた。




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