【ただいま】

□渦潮の中
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訓練の為、俺は新入隊員を率いて空の上にいた。
下に見える海には、見た事のないような大渦。
俺は衝動的に、その大渦の中に飛行機ごと突っこんだ。



【ただいま】



飛行機と一緒に、浜辺に打ち上げられていた。
俺が無傷なのは奇跡だった。
コンコンと、フロントガラスを叩く音が聞こえ、目を開ける。
そこには、黒髪の子と金髪の子がいた。
まだ、10歳かそれくらいだろう子供だった。
何かを喋っているようだが…何も聞こえない。
俺はフロントガラスを開けて、子供たちの声を聞く。


「ねえ、お兄さんどこかの軍隊の人?」


金髪の方の子がそう聞いた。


『んー…そんなとこだ』


俺は島を見渡す。
こんな島、初めて来る。
雰囲気が、今まで行った事のある島とは、少し違った。


『ここどこだ?早く戻らないと叱られるんだけど…』
「ここはパプワ島だよ」
『パプワ島?……聞いたことないな…』


地図にあったか?
あの付近に島なんてなかったし…。


「当たり前だぞ!ここは地図に載ってないからな!」
『ふーん……地図に載ってないのか…』


どっちに行けばすぐに帰れるかな…。
感覚的にはあっちだな。


「すごいね、地図に載ってないって言っても驚かないよ。この人」
「うむ、神経が図太いと見た」


…あれ?
今のって馬鹿にされた?


「ついでに言うと、ここからは帰れないぞ」
『え?あー…飛行機壊れてんな…』


見事なまでにボロボロで、言うなれば可哀相な鉄の塊だ。


「それもあるが、この島からは出られないんだ」


………不思議島ですか?


『マジか…。どうしような…』
「行くとこ無いんなら僕らの家においでよ!」
「うむ!歓迎するぞ!」
「決まりだね!じゃあ早く出て来てよ!」
『あ、ああ…』


子供達は早く早く、と急かす。
俺はシートベルトを外して、飛行機から降りた。


「そう言えばお兄さんの名前聞いてなかったね。なんて言うの?」
『アレク・ミチェルディードだ』
「僕はロタロー。こっちはパプワくんとチャッピーだよ」
「よろしくな!」
「わう」
『おう。よろしく』


と、2人の頭を撫でて言った。

当分帰れないな…。
ま、帰るまでの休暇って事でいいか…。


『そう言えば、ここに人って住んでないのか?家とかなんにも見てねえけど…』
「今のところは僕たちと家政婦だよ」


…家政婦?保護者じゃないのか?

そう思っているうちに、白く丸い物が見えた。
そのそばでは、洗濯物を干している男。
きっとあれが家政婦だ。
家政婦にしては…ガタイいいな。
うわ、洗濯物干して顔が煌めいてる。
やっぱり家政婦だな。うん。


「リキッドー。ただいまー」


ロタローはそう言って、洗濯物を干している男の元へ駆け寄った。
ロタローが俺を見て、家政婦に話をしている。
家政婦は俺を見ると、ロタローとパプワを中に入れた。
そして、俺のところへ来る。


「お前、誰だ」


さっき子供に見せていた表情とは違い、完全に俺を警戒していた。
一般人の出せるような殺気ではない。
どこかの軍にいたか、そういう仕事をしていたか…そのどちらか。
まァ、今考える事ではない。


「…コタローを攫いに来たのか」


男はその殺気を放ったまま俺に言った。


『コタロー?あの子ってロタローって名前じゃなかったか?』
「知らばっくれんじゃねえよ」
『そう言われても――…うおッ』


家政婦の掌から雷のようなものが出た。
特異体質か…相手にしたくないな…。
俺は上着を脱いで、腰に巻く。


「!…やる気か?」
『あ、そーじゃなくて、暑いから』


顔を手であおぐ。
さすが南の島というべきか、汗がドッと出ていた。


『こんなの着てたらぶっ倒れちまうよ』


背を向けると、肩を掴まれた。


「待てよ。逃げる気か!?」
『…その言われ方は気に障るけど、子供の前で戦いたくないんだ』


そう言って、森の中へ歩いて行く。


「待てよッ」
『またそのうち会うだろうけど、そん時はよろしく頼むよ』


手を振り払って、浜辺に戻る。




















飛行機を海から引き上げて様子を見ると、かなり故障していた。


『あちゃー…。これは直せないな…』


エンジンがどっぷり浸かっちゃったからなぁ…しかも軸が変な方向に曲がってるし…。
補助翼がどこにも…あ、海に浮いてた。つーか、全部折れてる…。


『整備士じゃないから分かんねーよ』


と、叫んでみても直るわけではない。
浮いている補助翼を取って、機体の下に置く。


『…たしか、この島に人は3人しかいないんだったな…』


ロタローとパプワとあの家政婦……。


『ため息が止まらねえ』


操縦席から工具を取り出して、補助翼だけでも…と直してみる。


「見てイトウちゃん!あんな所に素敵なお方がいるわ!」
「汗を流す姿がステキ〜v シンタローさんとはまた違う素敵なオーラをだしているわ!」
『………………』


足の生えた鯛と、巨大なカタツムリが尋常でないスピードで近づいてきた。
その恐ろしさは、ホラー映画を超える。


「お名前はなんて言うの?」
『…アレク』
「あたしはタンノよ。こっちはイトウちゃん」
「よろしくねv」
『ああ』


俺は補助翼を持って、主翼に登る。


「アレクさんはこんな所で何をしてるの?」
『さんはいらないよ。今は飛行機の修理やってる』
「大変ね〜。でもそれを直しているあなたは素敵v」


…ああ、キモい…。
この島にいるナマモノはみんなこんなんばっかりなのかな…。


『こういうのもなんだけど、邪魔になるからどっか行っててくんねえかな』
「そうね。邪魔しちゃいけないわッ」
「帰るわよタンノちゃん」


そういって、二人は森の中へ行った。
俺は補助翼をつけてからエンジンを見る。


『エンジンの代えは…無いよな〜。つーかこの前換えたばっかだったからな…』


そう言って、操縦席に座る。
夕日はすでに沈み、茜色は紺色へ染まっていた。
まばらに、小さな星が見えてきている。


『…仕方ない。このまま寝るか』


目を瞑って、その夜を過ごす。
波の音が子守唄となって、俺を深い眠りへと誘っていった。


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