【ただいま】

□プロローグ
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当時、少年兵としてそこにいた。
果てしなく続く荒地、倒れているモノ、腐敗臭、飛び交う鴉…。
まるで、地獄だった。



【ただいま】



それはいきなりだった。
青白い光が、僕らのいる基地を中心に、国を襲った。
国は一気に廃墟となり、周りにいた大人たちは動かないモノとなった。
僕は運良く生きていたが、一緒にいた人々はすでに冷たかった。


『…………』


生きている人は居ないかと歩き回ってみる。
一本の腕が、僕の脚を掴む


「たッ……助け…ッ」
『うわああああッツツ!!』


赤い腕が、いつも見ていた筈の赤が、怖かった。
それを振り払いたくて、その手を何度も蹴る。
その人は僕を虚ろな目で見た。
力のこもっていた手が、地面に落ちる。


『うッ…げえぇぇ……おえぇ…』


初めて見る多くの死体に、吐き気が襲う。
いつもはこんな事なんてなかったのに。

3発の銃声が鳴り響いた。
敵がいる…?
……殺してやる!殺してやるッツ!!
僕はがむしゃらに走った。
その場所では、煙の上がる銃を持った仲間と、倒れている男。
仲間はうつ伏せていて誰か分からないし、死んでいるのかなんて、確かめる気にもなれない。

男は深緑色の服を着ていた。
うちの軍服は白色だから、敵だ。

そいつが目を開いた。


「…殺せ」


男は弱った声で言った。
どこか傷を負っているのかと体を見ると、腹部から多量の赤い液体が流れ出ていた。

殺せ?ふざけんなよ…。


『何だよ、殺せって。ここに死んでるみんなは…もっと生きていたかったのに…お前に殺されたんだぞ…。なのに何で、お前は死にたい時に、殺せって言えるんだよ』


なぜか涙が出た。
涙は止まらずに零れ落ちる。


「死にてェんじゃなくて…、助からねぇんだよ」


そう言って、目を瞑った。


『ふざけるなよッ、生きようって思わないのか!?殺してきた命を背負う覚悟もないのかよッ!!おいッツ!!』


胸倉を掴んでも、男は無反応だった。
死んだわけじゃないらしい。
どうやら、気を失ったようだ。


『…勝手に死んだら、僕はお前を絶対に許さないからな!』


その男の服を引き裂いて、撃たれたところを見る。
運悪く、1つだけ弾が貫通しなかったらしい。

民家だった瓦礫から、布と酒を持ってそいつの元へ駆けつける。

弾を取り出そうと、傷をナイフで広げる。
男は痛みで顔を顰めた。
起きる気配はない。

傷口に手を入れる。
真っ赤に染まった弾丸を出して、止血した。
そのあと、そいつの傷に酒を浸した布を当てる。

何でこんな事してんだろ…。
こいつは敵で、みんなを殺した仇なのに…。


『…僕は馬鹿だな…。こんな事するなんて…』


そいつの枕元に銃弾を置いて、立ち上がった。
背を向けると、軍服が引っ張られた。
瓦礫に引っかけたのかとそこを見ると、男が裾を握っていた。


『…放してよ』


反応はない。


『おい』


蹴ってみても、反応はない。
握っている力が強すぎるせいで動けない。
本当に気を失っているのかが疑わしいくらいだ。
仕方なく、軍服の裾をナイフで切って、そこから立ち去った。

しばらく歩いていると、艦が現れた。
それはあの男がいたところに降りて、すぐに飛び立った。
さっさと帰ってしまえと思う反面、良かったと安心している。
そんな自分に、イラついた。

国中を歩いていると、数人の大人が生き残っていた。
その大人達は、気を失っているだけだった。
僕らは国を再興して、そしてその小さな国で生活をした。
あいつが一体どこの誰なのか、全く分からないまま、月日は過ぎていった。



 

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