【青の鳳凰】

□L.siceraria
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――ノキが4番GR(グローブ)から次の島――何番か確認していないマングローブの根――へ渡った時の事だ。
わずかな頭痛と共に、“何か”が現れた。
“何か”と言うのも、それは異形だからである。
両腕は鳥の翼、脚も人間のものではなく、鳥の脚――例えるなら、それは鶴のようである――が、3本生えていた。
歳は10代前半くらいだろうか。
初めて見る異形の少年に、ノキの眼は釘付けにされた。


「かの地は眠り、“時”を待つ」


少年は跳ねるような軽い足取りでノキに近寄る。
何故かノキは動けずにただ呆然と少年を見つめる。
手を伸ばせば届く距離に立ち止まり、少年はノキを見上げる。
あどけない笑みを浮かべて腕を伸ばし、ノキの左胸に羽を突きつける。


「言の葉を、紅を、捧げよ」


ノキの視界が揺らいだ。
少年は楽しそうに笑い、ノキに背を向ける。

その後ろ姿が消えた時、トビウオライダーズが通りがかった。
ノキを麦わらの一味だと思っていたのだろう、デュバルの部下はノキをトビウオに乗せた。
そして、麦わらの一味と合流……シルバーズ・レイリーも一緒である。
麦わらの一味と共にいるところを海軍に見つからないかと警戒しつつ、流れていく景色を眺める。
その心配は無用で、ほとんど何事もなく一味は目的地にたどり着いた。
シャクヤクのいる飲み屋だ。
ノキは顔を顰め、その場を離れようとする。


「今は下手に動くよりここに隠れた方が手っ取り早いだろうが」


腕を掴まれ、中へ入る。
店の看板が裏返り、閉店になる。


「――オークション会場にいただろう。出ていくのを見た……」


レイリーがノキに話しかける。
ここで否定したところでナミやサンジには見られているのだから通用しない。
ノキは返事をせず、グラスに注がれた水を口に含む。


「もう慣れたのか」


ノキは弾かれたようにレイリーを見やる。
瞳には怒気が宿っている。


『慣れた?何に。あの空気にかい?それなら、イエスとでも言っておこうか?』
「何を苛立ってるんだ」
『水槽の中で首輪に繋がれた人魚なんてものを見せられて、苛立たない方がおかしいよ』
「おいクソ鳥。テメェ、今の言葉は何だ」


サンジがノキに怒鳴る。
ノキの瞳が今度はサンジを映し込んだ。


『じゃあ、売られていく商品を見て気分が悪い、とでも訂正しておこうか?』
「落ち着けお前ら。こんな時にケンカなんか」
「すまん。慣れたか、という聞き方がいかんかったな」
「ちょっと待って。どういうこと?」
「!話してないのか」
『……君らに話したのが最初で最後だ』


ノキはバツが悪そうに口を尖らせる。
これ以上隠し事はないと、麦わらの一味には言ったからだ。


「そうだ、あんた、ノキとは昔の誼とか言ってたけど」
「ノキは私が海賊だった頃、船員ではないが何度か船に乗っていた事がある。ロジャーはどうしても仲間にしたがっていたがな」
「ロジャー?」
『レイリーは海賊王の船に乗ってたんだ』

「え〜〜〜〜〜〜〜!!?“海賊王”の船にィ〜〜〜〜!!?」
「ああ。副船長をやっていた…。シルバーズ・レイリーだ。よろしくな」


かの海賊王の船員を目の前にして、一味は驚愕する。
そして、ゴールド・ロジャーの処刑の真実を、当事者から聞く――。


「ノキ、お前、海賊王の船に乗った事があるのか」
『ほんの数回、島から島への短い期間でね』
「それでも、おれらに言えない事を話せるほど親密だったわけか」
「いや、ノキが話したわけでも、聞き出したわけでもない……我々が知ってしまっただけだ」
「何があったんだ?」
「これに関しては…私が言うべきではないな。どれほど親密だろうが、言えない事もあるだろう」


レイリーがノキを横目に見やる。
その視線を受け、ノキはおどけて言う。


『そうだね』


話題を変えてくれ。
ノキは暗にそう言ったつもりだった。
レイリーももちろん、それ以上話を進めるつもりはない。


「でもお前、全部話すっつったよな」


何度、このやり取りをすればいいのか。
ノキは鬱血した様に重くなった頭を片手で押さえた。
たった一人の過去を、なぜそこまで知りたがるのか。
旅人や勇者の冒険譚やお伽噺のように楽しい話ならばいくらでも話すが、これはそうとはいかない。
……話してしまえば、このいたちごっこの様なやり取りをせずに済むだろう。
何を知ったところで、蔑視する様な人間ではないのはわかっている。
だが――口にすることで思い出す悪夢が、恐い。


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