【青の鳳凰】

□人魚と魚人と人間と
3ページ/13ページ


とは言ったものの、信用されていないのか、ノキは腕を掴まれたままレストランの入り口にまで来た。
そこにはキッド海賊団の船員が立っていた。
その付近では喧嘩が起こっている。


「キッドはどうした。あれか」
「あれです」
『よくやるよ』


キラー達が指を差した先はもちろん喧嘩の中心である。
ノキは半ば呆れた様子で苦笑した。


『ご飯食べてくるよ』
「…」
『いや、あのさ、さすがに裏口から逃げるとかしないから』


顔は仮面で見えないが、向けられた視線は読み取る事ができた。
明らかに、疑っている。


『何なら一緒にどう?』
「いや、いい」
『つれないなァ。じゃあ、適当に食べてるね』


そう言い残してレストランへ入る。
レストランの中はやはり外の話で持ち切りである。
ノキはメニューを一通り頼み、イスの背もたれに身を預けた。
貧血のせいで全身が鉛の様に重い。


『…』


そういえば、“彼女”の声をしばらく聞いていない。
ノキと呼んでくれたあの鈴の音の様な澄んだ声は、スリラーバーク以来、聞こえない。


『あの時、離れなきゃよかったんだよな…』


あの手を放さなければ、彼女は今もきっと隣にいてくれただろうに。
そして、失った過去を思い出せるはずだったのに。
そのはずだったのに、何もわからないままだ。
彼女が誰なのか、まだ早いとはどういう事なのか、あの男とは誰なのか…こんな島にいてもいいのか。
逃げないとは言ったものの、一刻も早く別の島へ行きたい。
早く彼女を見つけなければいけない様な気がして、落ち着かない。
それに、気になるのだ。
トビウオライダーズとの交戦の際に感じたあの寒気が。
もしかしたら彼女の身に何かあったのかもしれない。


『こんな島に来たくないっていう、拒絶反応かもしれないしなァ…』


深く考えすぎかもしれない。
それだったらいいのに。
そこまで考えると、ノキはいつの間にか目の前に出ていた食事に気がついた。
いつ運ばれたのだろうか…。
ノキはテーブルに運ばれていた食事に手を伸ばし、口に運ぶ。
考え事をしすぎたせいか、味がはっきりとしない。


『……』


美味いも不味いもよくわからない。
食欲が湧かない。
とりあえず、血を作るためだけに全て食べなければ。
早くこれを全て血に変えて、早く飛び立って行きたい。
時間がもったいない気がして、ならない。


『……まァ、今焦ってもな…』


センゴクに呼ばれた用事に付き合わなければいけないのだ。
自由に動けるのは、その用事が終わってからだろう。
焦ったところで、すぐに彼女に会えるわけではない。
ならば、いつか必ず彼女に会えると信じて、その時を待とう。


『少しだけ、寄り道してもいいかな』


そしたら、君に会いに行く。
必ず、何としてでも。
だから。


『待ってて』






















「…」


男は窓の外を見つめ、溜め息をついた。
時間はまだある。
ノキが未だ何も思い出せていないのは、たしかに少し厄介だが、まだ焦る事はない。
今はひたすら、準備していればいい。
ノキをうまく利用できる様に。
あの女の様に、使えなくなる前に。
笑みを顔に貼りつけ、空を見上げた。
相変わらず青い空は、野心に淀む男の瞳とは対照的で、澄んだ透明感のある色だった。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ