【青の鳳凰】

□人魚と魚人と人間と
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ホテルを確保し、ノキは部屋へ入った。
ベッドとテーブルとユニットバスだけの、質素な部屋だ。
その部屋のテーブルに電伝虫を全て並べ、ベッドに座ると、溜め息と一緒に疲労を吐き出した。


『やっと、か』


ようやく、麦わらの一味と距離を置く事ができた。
シャボンディ諸島は広い。
コーティングも2、3日で終わる筈だ。
彼らが行きそうな所にさえ行かなければ、もう会う事もないだろう。
寂しくない、と言えばそれは嘘になるが、これは自分で決めた事だ。
そうした方がいいと、見つけたのだから。


『…』


さて、これからどうしたものか。
とりあえず、舟をサニー号から離して、この74番GR(グローブ)に泊めよう。
サニー号に見張りはいるだろうが、誰がいるのかはだいたい想像できる。
ルフィは絶対にいない。
ナミも買い物をするだろう。
あの厄介な二人がサニー号にいなければ、大丈夫。
ノキは重い腰を持ち上げて、姿を隠す物をマントから長さが膝下までのコートに変え、頬の模様を隠すためにマフラーを巻いた。
暑いのは、体温を下げて調節する。


『よし…。行くか』


最小限の荷物だけを持って、部屋から出る。
無法地帯を歩いて行けばルフィ達に会う可能性は高くなるが、今はまだ海軍頓所の多い場所は行きたくない。
服装を変えたし、目印であった青い翼も今はない。
遠巻きに見れば自分がノキとバレないだろう。
時計回りに進めば、きっと大丈夫。






















『…何でかなァ…』


何故、こうなる。
22番GR(グローブ)……そこでノキは重いため息を吐き出した。
無法地帯である。


「ソアリング・ノキだ」
「違いねェ」


十数人の男に囲まれたのだ。
手には武器を持っている。
小声で話しているが、その声はノキにもしっかりと聞こえている。
人違いではなさそうだ。
小物狙いの賞金稼ぎか……ノキはその場を適当にあしらおうと決めた、その時。


「売ればいくらになるんだ?」
「悪趣味な貴族なら高額で買うだろ」


ああ、こいつら。
ノキの全身が粟立つ。
血液が波打つ様な感覚が、ひどく気持ち悪く感じた。
鼓動が急に早まり、冷や汗が滲む。
腹の底から沸き上がる憎悪が体内を蝕む。
こいつら、人攫いか。


『――今、機嫌がよくないんだ。他を当たってくれ』


それはとても殺気を帯びていた。
言葉自体は提案だが、聞き手からすればそれは命令形に受け取られ、ノキを囲む男達のこめかみや口角がヒクリと引き攣る。
そして、罵声を浴びせながらノキに襲い掛かった。


『…“赤の風(グール)”』


赤い風が血でさらに赤く染まる。
風を避けたのは、ほんの数人。
避けられなかった仲間を見て、少し怯んでいるようだ。
ノキはさらに、赤い風の球体を作る。


『言った筈だよ。今、機嫌がよくないって』


感情のない声と無機質な笑みで男達を見る。


『賞金稼ぎならまだしも、“人攫い”としておれの目の前に現れた事を悔やむんだね』


そう吐き捨てると、その球体を放った。
短い悲鳴と噴き出す血を確認し、ノキは再び歩き出した。


――落札となりまーす!


『…』


ノキは何かを確かめる様に、マフラーの上から自分の首に触れた。
何もない。
手にも足にも、何もついていない。
それが当たり前なのだが、少し、安堵した。


『早く、舟へ行こう』


こんな島、さっさと出て行きたい。
その意思だけが、ノキの足を進ませた。
踏みたくもない地面を蹴り、足早にサニー号へ向かう。
どうしても、この島には、いたくなかった。


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