【青の鳳凰】

□終息した悪夢
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翌日、その場で寝てしまった人々は次々に起きて、各々で行動していた。
…ノキはまだ、彼女を探している。
ロビンはすぐにノキの元へ行った。
ひしゃげた鳥かごの傍にノキはいた。


「ノキ」
『ロビンちゃん…』


振り返ったノキの顔は明らかに青白かった。
翼を折られているとわかっているロビンからしたら、無理をしている事はすぐにわかった。


「少し休んだ方がいいわ。顔色が悪いみたいだし…」
『大丈夫…』
「…彼女を探しているの?」
『うん。いる筈なんだ…。だって、確かに、ここに……』


ノキの手には青い羽根が数本だけ握り締められていた。
きっと彼女のものだろう。


「無理はしないで。ここで倒れてしまったら元も子もないでしょう?」
『平気だよ…』
「でも、翼を」


ロビンは心配そうな瞳でノキを見る。
マントの中から覗く服が、乾いた血で黒く染まっている。


「治療を嫌っているのは知ってるわ。だけど、せめて休んでちょうだい」


目でもそう訴える。
ノキはその目を見つめ、小さな溜息をついた。


『そうだね……。少し…休むよ』


眉尻を下げてそう言うと、ノキはその場に座り込んだ。
その動作は緩慢だった。
ロビンはノキに続いて、彼の横に座った。


『みんなは…もう起きた…?』
「まだ寝ている人もいるけれど、だいたい起きたわ」
『そう…』


彼女の羽根を見つめながら答える。
しかし、自分から聞いておきながら、ロビンの返事は頭にあまり入っていなかった。


「…気になるの?彼女が」
『ん?あァ…うん。…おれにとって、すごく大切な人……なんだと思う。…多分』


言い方が曖昧なのは、思い出せていないせいだろうとロビンは解釈し、相槌を打つ。


『彼女が誰なのか…おれの何なのか……全然わからない。何も思い出せない』


うなだれて首を横に振る。
つい昨日まで聞こえていた声はもう全く聞こえない。
声に伴っていた頭痛すら、ない。
頭痛は別の痛みで消されているだけかもしれないが…。


『思い出せない…のが、もどかしい』
「…」
『やっと会えたのにな…』


悲しい顔をして、羽根を握り締める。
半ば諦めかけていた“仲間”――同種とも言える――を見つけてしまった事で、抑えていた願望が蘇った。
仲間を見つけたい。
昔はそればかりを考えて世界中を嫌になる程飛び回っていた。
その時と同じ感情が胸に宿る。


『どこに行ったのかな…』


青い羽根を見つめたまま、その羽根に尋ねる様に呟いた。
それが答えるわけもなく、沈黙が流れる。


『…ゲッコー・モリアにやられる前…思い出せた…気がする……んだけど……』


今は全く思い出せない。
そう途切れ途切れの口調で言う。
片手で額を押さえ、ノキは深い溜息をついた。


『もう少し…彼女……と…話……。…あの…丘……で………』
「ノキ?…ノキ!!?」


地面に吸い込まれる様に、ノキの体が瓦礫に倒れた。
島全体を囲んでいた緑色の風が霧散する。
ノキの傷を覆っていた風も消え、まだ塞がっていなかった傷口から血が滲み出る。


「ノキ!!!」


ロビンは慌ててノキを抱える。
その体は恐ろしく冷たく、軽かった。
やはり無茶をし過ぎていた。
ノキを抱え、屋敷へ戻る。
早く、早く船医に診て貰わなければ…。


「ロビン、どうした?」
「ノキが…!」


眠っているゾロの隣に寝かせると、麦わらの一味はそこに駆け寄った。
一味はゾロを除く全員が起きていたらしい。
チョッパーはノキの傍に座り、血が滲んでいる患部を見ようと服を丁寧に剥いだ。


「翼が折られてる……!!!」
「え!?でも翼は仕舞ってるって言って…」
「その時から折られていたの」


剥き出しの骨が白を主張する。
鮮やかな赤と黒ずんだ赤がそれに混じって、さらに痛々しさを増す。


「大変だ…!早く治療しなきゃ!!!」
「ん?何だ、あの模様」
「…え?」
「ノキの翼の所。変なマークがあるぞ」


ウソップがノキの背中を指差す。
両翼の間に、どす黒い印があった。


「……!!そんな事はあとからでも聞ける。今は治療が先だ」


医療機器を取り出し、チョッパーはノキの治療に入った。
その時チョッパーが不思議に思ったのは背中の印よりも、傷が治りかけている事だった。
治癒が早すぎる。
くまがいた時にはまだあった擦り傷などの小さな傷はもう跡形もなく消えていた。


「聞くといやァ、七武海が言ってた事も聞かねェと」
「“約定”」
「ロビンは知ってる?」
「さァ…。聞いてないわ」


くまが言っていた、政府との“約定”。
内容はきっと政府に協力する事だろうが、詳しい内容までは理解できていない。


「ノキについて何も知らないな、おれ達」
「回復したらあとで全部聞けるでしょ。今は治療が優先よ」


ナミの言葉に頷き、その場からチョッパー以外はみんな離れた。
治療し終えたノキをゾロの隣で安静させる。
二人とも血色がよくなってきたが、起きる気配はない。
ルフィ達はそれを心配しながらも、出航や宴の準備等を着々と進めていった。


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