【青の鳳凰】

□終息した悪夢
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くまが立ち去った後、一度は起きた麦わらの一味やローリング海賊団の船員達は糸が切れた様に眠ってしまっていた。
ノキだけは、緑色の風をスリラーバーク全域に巡らせて、彼女を探していた。
寝かせていた筈の場所に彼女はいなかった。
探しても探しても、いない。
瓦礫を掻き分けても、屋敷の中に入っても、誰もいなかった。
それこそ、猫の子一匹もいない。


『ハァ…ハァ……。っ…』


息切れしながらも、歩みを進める。
瓦礫の下敷きにされているかもしれない。
どこかへ飛ばされているかもしれない。
いない筈がない。
そう何度も頭で言い聞かせて歩みを進める。
しかし、どれだけ探しても、彼女の姿は見当たらない。
探し始めてからもう半日は経つというのに。
普段ならもう諦めている所だが、今回はどうしても諦めきれなかった。


『くそ…』


くまが連れ去ったのか、いつの間にかいなくなっていたモリア達が連れ去ったか……その可能性も、0とは言い切れない。
もしそうだとしたら、前者にせよ後者にせよ彼女が危ない。
ここにいてくれと切に願う。
滲み出る脂汗を拭い、さらに歩いた。
緑色の風の範囲を島の全域にしてしまったせいで、全身の傷の治りが著しく遅い。
折れた翼の傷口は塞がらず、服に血を滲ませる。
湿った生地が背中に貼ついてうっとうしい。


『ハァ…』


脚が震える。
だけど、探さなければ。


「ノキ!」
『…』


麦わらの一味の船医がノキに駆け寄った。
さっきまで寝ていたが……目が覚めたのか。


『おはよう、チョッパー。気分はどう?』


さも平気そうな表情で挨拶を投げかける。
その事にチョッパーは少し驚きながら、大丈夫だと返事をした。


『みんなは?』
「まだ寝てる。疲れてたんだろうな」


チョッパーは心配そうに眉尻を下げてそう言った。
一夜漬けで戦い続けたのだ、仕方ない。
特にゾロは大量に流血し、ここにいる中で一番重傷だ。
心配しない筈がない。


「…じゃない、ノキ!なんでこんな所にいるんだ!お前ケガ人だろ!」
『おれはもう平気だよ』


ニコリ、と笑って見せる。


「でも休まないとダメだ!それに、そんな簡単に傷は治らないんだぞ」
『大丈夫。それより、みんなの傍にいてやってよ』


ノキはチョッパーの頭を撫でながらそう言った。
それでもチョッパーはノキを見上げたまま動かない。


『本当に大丈夫だよ。治療はいらない』
「でもノキは空島の時からずっとケガしてるし…」
『君ら程じゃないよ。それに、みんなと別れてからちゃんと治療はしてる』


嘘だが。
こうでも言わないと聞かないだろうと、ノキは平気な顔で虚言を吐き出した。


「本当か?」
『もちろん』


嘘だ、という語句を言わず、ノキは笑みを深めた。


「もしどこか痛かったり傷が開いたりしたらちゃんと言うんだぞ」
『うん。ありがと』


チョッパーはノキから離れ、みんなが寝ている中庭へと歩いて行った。
ノキはチョッパーの姿が見えなくなるとすぐに笑みを消して、また彼女を探し始めた。
瓦礫の下や屋敷の中、墓場、森、冷凍室……全てしらみ潰しに探したが、どこにもいなかった。
確かに彼女はここにいたのに、何故?
ずっと聞こえていた声も、今は聞こえない。
たったそれだけで、焦燥感が胸を押し潰す。


『名前…。呼んでよ…おれの名前……』


膝をついて、砂利を握り締める。


『ハァ…ッ……ハァ…ッ』


脂汗と冷や汗が額から地面へ落ちた。
血を流しすぎた。
貧血で眩暈がする。


『く…っ』


袖で汗を拭い、立ち上がる。
立ち止まっている暇はないのだ。
まだ探してない場所があるかもしれない。
早く、早く探し出さなければ。
























――遠くなっていく。
君との距離が、長くなっていく。
私はここだよ。
声が出ない。
身動きも取れない。
ノキに届かない…。

だけど、また会えるって信じてる。
たとえどんなに海がおかしくても空は一つしかないのだから、必ず会える。
傷が癒えたら、真っ先に君の元へ行くよ。
必ず、君に会いに行く。


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