【青の鳳凰】
□霧中海域
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『ん〜…。……よしっ』
幽霊などといったものは信じていないが、好奇心に駆られ、ノキはその船に飛び乗った。
「45゚!」
『ぎゃあ!』
急に縁に寄り掛かった人物に驚いて、ノキは飛びのく。
やけに細い人物の足を見ると、人肌ではなく、白く細いものが裾から見える。
それが骨だとわかる前に、その人物は顔を上げた。
「オヤ!あなたはたしか、水上の情報屋さんじゃないですか」
『え?』
「いやァ、50年振りでしょうか。憶えていませんかね」
『……もしかして、ブルック…?』
ノキにとってはまだ新しい記憶の中から、特徴の当て嵌まる人物を探し出す。
その答えはすぐに出たのだが、それが当たっているのかは自信がなかった。
何しろ、顔立ちは全く違う…というよりも、ガイコツになってしまっているのだから、仕方がない。
「そうです!いやァ憶えていただいているとは、嬉しいですね」
50年前、ブルックが入っていた海賊が“偉大なる航路(グランドライン)”に入る前に、ノキと出会っていた。
仕事終わりに立ち寄った島で、意気投合しただけだが…。
「お茶飲みます?」
『あ、その前に聞きたい事があるんだけど…ブルック、おれんとこに電話した?』
「電話?いえ、してませんが」
『だよね。じゃあ誰だ…?』
「お仕事ですか?大変ですねェ、こんなところまで」
『うん……』
やはり電話の主が気になるらしく、返事は宙に浮遊した。
甲高い、不気味な声…少し、寒気がした。
「どうかしました?」
『え?いや…何でもないよ』
ノキはそう言い、あの電話について考えるのを一旦やめた。
「お茶どうぞ」
『あ…。ありがとう』
ブルックから貰ったお茶を一口飲み、ノキは辺りを見渡した。
霧が深く、ほとんど何も見えない。
『君がガイコツなのって、あの〜…君が食べた“悪魔の実”のせい?』
「はい、そうです!」
『“あの実”の能力者を見るのは久しぶりだけど…ガイコツになった人物を見るのは初めてだよ』
「ヨホホホ、この霧のせいで迷ってしまいまして!!」
『それは災難だったね』
ノキは苦笑して、また一口紅茶を飲んだ。
「あ、歌でも歌いましょう」
『え?あ、うん。聴きたいな』
「ヨホホホホホ!ご一緒にどうです?知っている歌だと思いますよ」
『ううん、遠慮するよ。歌うよりも聴く方が好きだから』
その時、霧の向こう側から来た一隻の船に、二人の乗っている船が近づいていた。
「ヨホホホ〜…♪ヨホホホ〜…♪」
『ビンクスの酒…。懐かしいな』
ノキは顔に笑みを浮かべ、歌を聞く。
船が少し進んでいくと、ブルックの歌声以外の声が聞こえた。
「出たァ〜〜〜!!!」
「「「ゴースト船(シップ)〜!!!」」」
明らかに、ノキ達の乗っている船の事である。
ブルックはティーカップを持って歌を続けながら、その声の方へ行く。
「………ビンクスの酒を…♪届けに…ゆくよ……♪」
船は、迷い込んだ海賊船を通り過ぎる。
(ホラーだろうな…)
ノキはすれ違った船の船員達と同じ立場にいたら…と考え、苦笑した。
ゴースト船(シップ)から、生きたガイコツが歌いながら顔を覗かせるというのは、あまり想像したくないものだ…。
「海風…♪気まかせ…♪波まかせ…♪」
『……ブルック、お客さんだよ。3人かな、そこの縄ばしごを登って来てる』
「おや!ではお迎えしなければいけませんね」
ブルックはそう言って縄ばしごのところへ行き、下を覗く。
3人の悲鳴が、船近辺の海域に響いた。
『ホラーだ…』
ノキはそう呟いた。
その時、3人の内の一人が甲板に上がった。
麦わら帽子を被っている…。
それが3億の賞金を懸けられた人物だとわかると、ノキは気づかれる前にフードを深く被り、翼を動かした。
黒い風がノキを覆い、存在を薄くしていった。