【青の鳳凰】

□霧中海域
1ページ/15ページ





ウォーターセブンの海域から抜け出し、ノキは船室から外に出た。
気候が変わったが、晴れている事に変わりはない。
空を見上げると、雲の流れがかなり緩やかである事がわかる。
雨はまだ来ないだろうと踏み、ノキは船室の屋上に座った。


『はー、ひまだなァ』


などと呟くと、ニュース・クーがノキの頭上を通過した。
ノキはそれを呼び止め、新聞を購入する。


『最近どう?そう、よかった。おれ?おれはまあまあってところかな。情報屋らしい仕事があまりないけどね』


苦笑しながら小さな頭を撫でる。


『あ、巨大イカのスルメいる?』


スルメを差し出すと、ニュース・クーはそれを一口で平らげた。


『もう行く?あ、そうか、忙しいもんね。じゃあ、頑張って』


帽子を適度な角度に整えてから、ニュース・クーはノキの舟から飛び立った。


『大変そうだなァ、おれと大違いだ』


暢気にそう言うと、ノキはスルメをかじりだした。
この舟には干物ならいくらでもあるようだ。
硬めのスルメを噛みながら、先程購入した新聞を広げる。


『総額6億2300万と50…。全員が賞金首になったか…。さすがにそうなるよな』


麦わらの一味の手配書である。
その中から一枚、手配書が風に吹かれて抜け出した。
なんとか捕まえ、それを見る。


『“鉄人(サイボーグ)”フランキー…。4400万か……すごいな』


呟いただけで、ノキは手配書を全てまとめて紐で縛る。
風で吹いていかない様に脚で押さえながら、新聞を広げた。


『フランキー一家については何もない、ね。…おれの事も載ってみたいだな』


安堵し、柔らかくなったスルメを飲み込んだ。
新しいスルメに手を伸ばした時、船室から電伝虫の音がノキの鼓膜を震動させた。


『ん?仕事用の…誰だろ』


数ある中の一つ、殻に仕事用と書かれた電伝虫が鳴っている。
ノキは船室に入り、受話器を取った。


『もしもし』
[水上の情報屋…ソアリング・ノキだな]


少し甲高い、男の声だ。
その声色からして、話の内容が明るい類いのものではない事がわかる。


『そうだけど…。あんた誰?』
[“魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)”に来い。早めにな]
『え。ちょっ、だからあんた…』


電話口の相手はたったそれだけの用件を言い、ノキの言葉を遮る形で、通話を一方的に終わらせた。


『「“魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)”に来い」って言われても…。名前くらいは言って欲しいもんだよ』


ノキは顔を渋らせ、通話が不可能となった受話器を置いた。


『だいたい、あそこはロビンちゃん達が次に行くところの途中に…。まあ、彼らが来る前に終わらせればいいか』


ため息をつき、ノキは船室から外に出た。


『あっちが南だから三角地帯はこっちかな。あーあ、キューカ島に行きたかったのにな…』


時計と太陽の位置でだいたいの方角を確かめると、風向きを変えて、舟を“魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)”に向けた。

その数日後に、目的の海域に辿り着いた。
そこは辺り一面を乳白色が覆っており、光は届く筈もなく、暗く肌寒い。


『――死者を乗せた“ゴースト船(シップ)”か…。見てみたいなァ』


ノキはするめをかじりながら、この海域について書かれている新聞を広げた。
「今月もまた14隻…船が消えた」
そう書かれている。


『おれも遭難しそうだなァ…っていうか、今してるか。そうなん?みたいな、ね。遭難なだけに。ハハハハ…』


苦笑した後、ため息をついた。
数時間前にこの海域の手前まで来て船を止めたのだが、いつの間にか霧の中に閉じ込められていたのだった。


『…すごく寒くなっちゃったよ』


椅子から立ち上がり、いつの間にか開いていた扉を閉めた。


『こんな不気味なところに呼び出すなんて…誰なんだよ、ほんと』


ノキはそう愚痴り、イスに腰掛けた。
電話は一切ない。
電伝虫を睨みつけながら、この海域に来て何度目かのため息をついた。


『ひ〜ま〜だ〜あ〜…』


と言っても、何かが起きるわけでもなく、元々静かだった空気がさらに静まり返ったのを痛感した。
ノキはそのまま5秒程だけ思考を停止させ、またため息をついた。


『“ゴースト船(シップ)”でも出ないかな』


半ば願いながらそう呟く。
すると、しばらくの沈黙の後に、不気味な笑い声が聞こえてきた。
ノキは二回程瞬きをして、船室から出た。
すると、目の前には、奇襲された傷跡が生々しい海賊船があった。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ