【青の鳳凰】
□水の都とCP9の企図
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『さてと……』
ノキは本社から出ると、水路に停めていたヤガラブルに乗った。
買っておいた新聞を手にし、それに目を通しながらこれからどう動くかを考えた。
ノキが思考を巡らせている間にも、ヤガラブルは水路を進んで行く。
「ニー!」
『ん?』
突然聞こえたヤガラの鳴き声にノキは新聞から顔を上げた。
電伝虫が、低く鳴っていた。
「ニーッ!」
『ああ、ありがとう』
ノキは受話器を外し、口元に持っていった。
『もしもし。水上の情報屋です』
[さっきはよくも途中で切ってくれやがったな!]
啖呵を切るその声の主は、スパンダムだった。
マリージョアにいた時、話の途中で切ったのを根に持っているようだ。
相手がスパンダムとわかると、ノキの表情は一瞬にして冷めた。
その表情のままノキはため息をつき、口を開いた。
『おれの過去を知ってるだなんてくだらない事を言うからだよ。お前が言いたいだろう事は憶えてるし、おれが聞きたいのは、おれが知らないおれの過去だ』
その言葉は、どこかおかしかった。
しかしスパンダムはノキの言葉を聞き、不敵に笑った。
[ヌハハハハ…!じゃあ自分の故郷も知ってるんだな?]
『!』
言葉を失い、ノキは受話器を持ったまま固まった。
それは、ノキが一番知りたかった事だった。
自分で調べるにも手がかりは何も無く、政府に訊いても知らないの一点張り、鳥に訊いても首を傾げるだけ…。
『………し…知って、んの?』
口が震え、思うように声が出せない。
全身から冷汗が噴き出て、興奮に熱くなる体にひやりと垂れる。
知りたいという気持ちが先立っていた。
[ああ!知ってるとも、知ってるに決まってるだろう?おれ達はCP(サイファーポール)だぞ?]
『…………』
ノキは電伝虫を見つめ、呆然としていた。
[聞きたきゃァ、エニエス・ロビーに来い]
『エニエス・ロビー…。……わかった』
思考が停止したまま、受話器を静かに置いた。
自然と笑みがこみ上げ、ノキは口元を押さえた。
ノキの変貌ぶりに訝り、ヤガラは首を傾げる。
『……いや、期待しない方がいいよな。どうせ、いつもと同じパターンだから…』
そう言い聞かせて首を横に振り、笑みを消した。
読みかけていた新聞を手に取ると、再びそれに目を通し始めた。
一方その頃、ルフィ、ウソップ、ナミの3人はヤガラブルに乗り、商店街に出てきていた。
「まただ……………。よく見ると町中にいるみたい。あの仮面の人達…」
「おいナミ〜!!」
「ニーッ」
『あははっ。水水肉はさっきあげたろ?』
ふと、ついこの間まで聞いていた人物の声が3人の耳に届いた。
思わず3人は周りを見渡す。
「あっ!!!」
「ノキ!!!」
黒いマントから覗いた青い翼を見つけ、ルフィはノキの乗っていたヤガラブルに手を伸ばした。
突然ぐらついたせいで、ノキは掴まれた方を見る。
『え!!?』
「見つけたぞー!」
と、無理矢理ヤガラブルを引きよせて、自分達の乗っているヤガラブルの隣につけた。
ノキは突然の事に呆気に取られ、ルフィ達とヤガラブルを交互に見た。
「ノキ!仲間になれ!!!」
『……え?』
ルフィの言葉に、ノキは目を丸くした。
一番始めにそう言われるとは思っていなかったのだろう。
『えっと…悪いけど、仲間にはならないよ』
「よしっ!じゃあ行こ…えー!?何で!!?」
ルフィはノキが断るとは思っていなかったのだろう、ノキの言葉に遅れて反応した。
『おれは仲間を作らない主義なんだ』
「えー、仲間と一緒にいた方が絶対楽しいぞ」
「そうだぜ。1人よりも大勢いた方が絶対楽しいって」
口を尖らせて言う2人にノキは苦笑し、開いていた新聞を畳んだ。
ノキは自分を乗せているヤガラブルに水水肉を与えて頭を撫でると、ルフィ達を見据えた。
『楽しいのは好きだけど、1人の方が動きやすいんだ』
これだけが理由ではないが、ノキはそれだけ言うと口を噤んだ。
「仲間になれよー!」
『やだよ』
「なれ!!」
『いやだ』
そのやりとりは続き、しばらくしてノキはため息をついた。
『何でおれなの?他にも人はいるだろ?ここなら船大工もいるし』
「船大工も音楽家も仲間にしてェけどノキも仲間にしてェ」
「音楽家なんて言ってねェだろ」
ルフィの言葉にウソップはすかさずツッコミを入れた。
『…ん〜、困ったな。なんて言えばいいんだろう…』
後頭部を掻き、顔を少し歪めた。
フードに隠し、その表情を3人には見せなかった。
『はっきり言わせてもらうけど、おれは仲間なんていらないんだ。飛んで行動する事の方が多いから、邪魔になるだけだし』
その言葉はほとんどが嘘だった。
空を飛ぶのは急用の時くらいしかない為、ほとんどは船で海を渡っている。
飛ぶとしても、仲間は船番として置いていけばいいので邪魔になる事はない。
ただ、ルフィを納得させる為の言葉だった。
「でもおれはノキを仲間にしてェんだ」
『………』
「ノキ。あきらめたら?ルフィは何言っても聞かないわよ」
ナミはそう言い、ノキを見やった。
『おれは絶対に、仲間になんてならない』
ノキははっきりと3人に言い聞かせるように、強く言った。
ルフィも負けじとノキを勧誘するが、ノキは頑として聞かない。
「仲間にならねェと怒るぞー!」
『……』
その言葉に、ノキはルフィの親族である人物を思い出した。
その人物と同じ様な事を言う為、ノキは苦笑した。
『おれ、仕事があるから』
ノキはそう言うと、ルフィ達から離れた。
仕事とは言ったが、ほとんど私情をはさんだ様なものだが…。
しかし、ノキは仕事と割り切っていた。
『ああ、誘ってくれたのは嬉しかったよ。ありがとう』
「じゃあ仲間になれよー!」
『…それだけはやだよ』
そう言うと、ノキは人混みに消えた。