【青の鳳凰】

□黄金の鐘
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明け方、災いが島を襲った。
地震が起こったのだ。
ノキはそれより前に森に入っていた。
そのおかげで、崩れた地盤に挟まれた人物をカルガラより前に見つけた。


「………そこに…誰か……いるのか」
『………』


ノキは返事をせず、ノーランドを見据えていた。
ノーランドは顔を少し上げ、ノキを見る。


「……………ノキか…」
『……うん』


静かに返事をする。
一瞬の間があり、ノーランドが口を開く。
しかしノーランドの言葉よりも前にカルガラが現れた。


「ワハハハ…いいざまだ………!!」
『カルガラ…』
「神は直接貴様に鉄槌を与えた様だな…」


ノーランドは身じろぎ、カルガラを見遣る。


「ならば神とは………たいした事はないな…………。人1人……殺す…力もないのだから」
「………しぶとい」


ノーランドが何をしに来たかとカルガラに聞くと、カルガラは当然だと言う様に殺しに来たと言う。


「カシ神を殺したお前に生きていられると村は無事ではすまん……今の地震でわからんか」
「――カシ神…………ああ…あのヘビか…。…………食ってもマズそうだ」


その言葉にカルガラは怒鳴る。
しかしノーランドはそれに全く動じず、カルガラにここから立ち去るように言った。


「お前の顔など見たくない。私は…村へ急がねば………!!!」
「面白い…見届けてやるぞ…。もがいてみろ……。ノキ、お前もいろ」
『…うん』


ノキはカルガラの隣へ行き、座り込んだ。


「ウグ…!!!」


ノーランドは地盤から抜け出そうと力むが、体が食い込んでいる為、抜け出せない。


「器用に地割れに飲みこまれたものだ。まさに“神業”。それで生きている方がどうかしている…」
『…日が昇ってきたみたいだ』


東の空が白みを帯びてきた。
今日の夕刻に、儀式は始まる。


『この日が西に沈んだら……儀式が始まるよ』
「お前が儀式をめちゃくちゃにしてくれたお陰で、おれ達は神の怒りを買ったんだ!!!」


カルガラはノーランドの前に立ち、彼を見下ろす。


「今のお前の醜態がそれをよく物語っている……。その地盤が神の力だ。どうする事もできまい…!!!」


その後もノーランドは必死になってもがいていた。
時間が過ぎていく毎に、カルガラの表情から笑みが消えていった。

夕暮れになり、村では儀式を行う為に、ノーランドの部下達が檻から出された。
ノキはそれを察し、カルガラに告げた。


「――だそうだ。一日中…よくもがいたものだ」
「貴様ら…何をそんなに…恐れている」
「何…」
『…』

「実態のない恐怖に怯えては…人の命を差し出し気休めに…している!!!」


ノーランドの言葉がカルガラには聞き捨てならないようで、重い腰を上げた。


「気休め…だと…!!?」
「…そうさ…生け贄など…とんだ…気休めだ…。意味のない犠牲にすぎない…」


カルガラはノーランドの頭を蹴った。
何度も、何度も。


「……ッハァ…………!!…お前達の神が…どれ程偉かろうと…。………!!!人の命はもっと尊い!!!………!!!」


歯ぎしりをし、言葉を続ける。


「あんな幼気な罪もない娘を見殺しにして、平気でいられる様なお前達にはわかるまい…………!!!普通の神経じゃない………」


ノキは眉間に皺を寄せ、ノーランドを睨む様に見た。


「貴様らのやっている事は、人間以下だ!!!!」
「生け贄を差し出して平気でいるだと……?そう…思うのか。昨日お前が助けた女が…おれの娘でもか!!!」


カルガラが叫ぶと、ノーランドは目を剥いた。


「神の声を聞ける神官(パントリ)の言葉がおれ達にとってどれ程絶大な力を持っているか、お前達にこそわかるまい!!!」


神官(パントリ)の言葉は、シャンディアにとって神の言葉と同じ。
従う事が村の“戒律”だと言う。


「娘の命だけ乞うわけにはいかん!!!背けば必ず裁きが下る!!!」


カルガラがそう言った時、獣の声と共に、茂みから何かが出てくる音が聞こえた。
3人はその音の方を向いた。


「まさか…」
『……嘘だろ…』
「何もせずこうも困難が続くと思うか。紛れもない神の所業…………!!」


ジャガーを口にくわえたカシ神が現れたのだった。
カシ神はジャガーを飲み込み、身動きの取れないノーランドを見る。


「おれは果たして“裁き”を受けるのか!!“事故”で死ぬのか!!!村は果たして“呪い”で死ぬのか!!“病い”で死ぬのか!!!」


ノーランドは突然言葉を発した。
ノキとカルガラはノーランドに目を向ける。


「私の国では60年前…今お前達の村を襲っている“樹熱”という疫病によって10万人の命が奪われた…!!これにかかって死ぬ確率は90%を越える鬼病だった…!!!」
『…!!!!』

「だが、近年では同じ病気でも死に至る者は3%にも満たない!!“南の海(サウスブルー)”の植物学者が探検を重ね特効薬を発見したからだ!!!」


ノキはカルガラを見遣る。


「「コナ」という木の樹皮から取れる「コニーネ」という成分がそれだ!!今私が右手にそれを持っている。持ち帰れば薬が作れ、村を救えるんだ!!!」
「………」

「この成分を世界中のどれだけの人々がどれだけの時間を費やし探し回ったか、どれだけの犠牲を伴ったかお前にわかるか!!?」
「……」

「この偉大な“進歩”をお前達は踏みつけにしているんだ!!!!だからお前達の儀式は彼らへの侮辱だと言っているんだ!!!!」
「………!!」

「お前達の古い戒律こそ悪霊じゃないのか!!!!そんなに神が恐いのか!!!!」


その懸命な声は、カルガラを動かした。


「…答えを言え……。おれは今……何を殺した…」


カルガラはカシ神に槍を刺し、倒れるその体の上に立っていた。


「ヘビだ」


カルガラの問いにノーランドはあっさりと簡単に答えた。


「違う!!おれは今、戒律を破り“神”を殺したんだ…。しかしお前は…それを“ヘビ”だという。戦士や村人を殺す“呪い”を“治る病”だという…!!」


息を荒げながら、カルガラは言葉を続ける。


「本当にお前は…おれの大切な村を救ってくれるのか!!?村は………!!!救えるのか!!?」


カルガラは涙ながらに、ノーランドに強く問い掛けた。
その言葉に、ノーランドは「救える」と強く答えた。
そしてその日は、儀式を行う事なく、そのかわりに宴が始まった。
病に犯されていた村人はノーランドの作った薬によって助かった。


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