【青の鳳凰】

□黄金の鐘
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400年前――。

島から逃げ惑う、海賊達。
それを追う、1人の戦士。


「排除するのみ…!!!」


たった1人で海賊達の船に乗り込んでいく。
瞬く間に、その船は壊滅した。


「身ぐるみ全部、置いてゆけ」


彼の名は、カルガラ。
シャンディアの、大戦士の称号を得ている人物だ。

海賊船は業火に焼き尽くされ、海賊達は小船で逃げていく。
カルガラは海賊達の宝を引きずり、上機嫌に笑う。


『カルガラっ』


森の中で、カルガラは頭上を見上げる。
見上げた木の枝には、1人の少年が座っていた。


「ノキ…いたのか」


ノキはクスクスと笑いながら、カルガラの前に降りた。
カルガラの引きずっている袋を見て、また笑う。


『半分持とうか?』
「あァ。頼む」


ノキは袋を1つ出し、宝を半分その袋に入れ、その袋を引きずる。
半分にしても、量は多い様だ。


「ノキ。他に侵入者はいるか?」
『いない。近海にも船はないよ』


そう言うと、カルガラは##NAME##の頭を撫でる。
ノキは目を細め、カルガラを見上げた。


「どうしたんだ?お前がここまで来ているなんて、珍しいな」
『散歩してたんだ』
「そうか」


その戦利品を遺跡まで持って行くと、それを置いて、ノキは鐘の柱の下に座った。






















“偉大なる航路(グランドライン)”の、とある海原に、ある探検隊の船が波に揺られていた。


「嵐に次ぐ嵐…!!」
「大渦に…雪…!!!…まだ島は見あたり…ません……」


船は壊滅寸前だった。
食糧は尽き、コックが倒れる。
その時、誰かが海に飛び込んだ。
「提督」と呼ばれている、海に飛び込んだ彼は、服と靴をきちんと畳んでいた。
船員達は自殺かと不安がる。
しかし、海に飛び込んだ彼はすぐに上がってきた。
巨大な海王類を1匹、仕留めて。


「なまけているとやはり…。……………勘がにぶるな…………」


彼の名はモンブラン・ノーランド。
“北の海(ノースブルー)”の探検家だった。

ある日、荒れ狂う海原で、ノーランドは日誌を書きながら、ある“音”を耳にした。
美しく、澄んだ鐘の音。






















海円歴1122年5月21日。
ジャヤのシャンディアの村で、1人の神官(パントリ)が床に伏していた。


「1人…また1人、人が死に…作物も死に絶え………!!大地に…血は流れるばかり…この地は呪われたのだ…」


病に苦しみ、息絶え絶えに言葉を続ける。
それを見守るシャンディアの人々は、神の言葉を待つ。


「カシ神様を通じて神に貢ぐのだ…!!!血を捧げよ………!!!“生け贄の祭壇”に…………!!!カシ神様に村で一番美しい娘の血を捧げるのだ!!!」


呪いを止める、儀式をする。
その犠牲となるのは、ムースという名の娘。
神官(パントリ)の息は絶え、この村の死者は100人を越えた。


『………』
「ノキ…どうにかならないか……?」


村を通り掛かったノキに、村人は問い掛ける。
その問いに、かぶりを振った。


『ごめん……』


ノキの言葉に落胆する人々。
その絶望感を抱えたまま、ノキは鐘の元へ歩いていった。


その時、海岸にノーランド達が着いた。

カラァン…!!
カラァン…!!

鐘の音が島中に響き渡る。
その美しさに、一同は呆然と耳を傾けていた。
歩みを進めると、森の入口に倒れている少年を見つける。
侵入者を見つけた少年は、村へ走り出した。
ノーランド達がそれを追いかける前に、少年は倒れた。


「“樹熱”です」


少年はその病に侵されていた。
ノーランド達は村へ入って、民家を調べていく。

その頃、生け贄の祭壇に、ムースが上がった。
カシ神が姿を現すと、誰かが飛び込んだ。
そして次の瞬間、カシ神の首が飛んだ。
ノーランドが祭壇へ上がり、斬り落としたのだ。
彼への罵倒が降り注ぐ。


「儀式は終わりだ。恐かったろうな…」


ムースの目に、堪えていた涙がこぼれ落ちる。


「もう大丈夫!!!死ぬ必要などない!!!」


「カルガラーっ!!!」
「そいつを殺してくれー!!」


カルガラは祭壇の階段に上がり、ノーランドを睨む。


「――私は“北の海(ノースブルー)”ルブニール王国から来た探検家…」
「貴様が何者だろうと関係ない!!!排除するのみ!!!」


2人の刃が交わる。


「…そうやって排除してきたのか……!!!全て………!!!微々たるも重要な…!!“進歩”を!!!」
「貴様には何を言われる筋合もない!!!この場で神々に償え!!!」


金属音が鳴り響く。
2人は間をとる。
カルガラはムースの足元に小刀を投げた。


「さァ、そのナイフで命を断て。村を救う為の生け贄が命を惜しみ涙を流すなど、恥を知れ!!!!」


ムースがその小刀を持ち、自分に向けると、ノーランドはその小刀を払った。
隙のできたノーランドを、カルガラは槍で貫く。


「我々シャンディアを甘く見るな。加えて“神殺し”の大罪!!!お前1人死んだくらいでは贖えん!!!貴様等100人の命をもって償って貰うぞ!!!」
「……何かと言えば“命”“生け贄”“血”…それで神が喜ぶのか」


ノーランドは、地面についた膝を上げる。


「この儀式は我々に対する侮辱だ!!!」


その場が静まり返った。


「過去の偉人達の功績を無下にする様なこの儀式を、私は許さん!!!人々の幸せを望み……海へ乗り出した探検家や研究者達への、これは侮辱だ!!!!」


そしてノーランドは、「時間が欲しい」と言った。
村中に蔓延る病を救うと。
酋長は翌日の夕刻までを期限とし、ノーランドの部下達を檻に閉じ込めた。


「酋長…なぜあのままカルガラにやらせなかったんです!!」
「この島に侵入した時点で奴らはこの地の戒律を犯しているんですよ!?」


ノーランドへ与えた猶予に文句のあるシャンディア達は酋長に意見を述べる。


「カルガラ!!あんたも何とか言ってくれ!!!」
「……少しでも村の危機を感じたら…おれはすぐにでもあの男の首を取りに行くハラだ。明日の夕刻を迎えなくてもな」


カルガラがそう言うと、酋長は口を開く。


「神官(パントリ)のジジイも死に…私には神の声を聞く力もない。………ただな…懸命な人の言葉くらい…私にも聞こえる。それだけだ」


カルガラはその言葉を鼻であしらい、外に出て行った。


「…ところで、ノキはどこにいるんだ」
「儀式の時も居なかったな」
「それはいつもの事だろ。どうせ森か鐘のところにいるさ」


その頃、ノーランドは森の中で、目的の木を見つけた。


「………。あった、コナの木………!!!………これだけの森だ…なくてはおかしい…」
『この木が何なの?』


その声に、ノーランドは体を震わせる。
後ろを振り返り、身構える。


『侵入者だよね?カルガラ達には会ってないみたいだけど…』
「…君は………?」


シャンディアの者とは思えない、柔らかい物腰で話し掛けるノキを怪訝に思う。


『おれはノキ。君は?』
「…モンブラン・ノーランドだ」
『へェ、いい名前だね』


ノキはヘラッと笑い、ノーランドの顔を見た。


「…儀式の時、君は居なかったのか?」


あそこに居たのなら、ノーランドと話す筈がなく、ましてや名乗る事などする筈はない。
ノーランドはノキに警戒しながら、そう尋ねた。


『儀式?あァ、おれは行かないんだ』


ノキはそう言い、ノーランドの隣に立つ。


「君は彼らと同じ部族じゃないのか?」
『違うよ』


その言葉に、不審がる。
過去に侵入者はいないと、カルガラが言っていたからだ。
それを察したのか、ノキはクスッと笑う。


『神官(パントリ)のお告げで、ここにいるんだ』


笑いながら肩を竦めた。


『君は儀式とか生け贄とか、馬鹿らしいと思うだろうけど、みんな本気なんだ。だから…あまり悪く思わないでね』


ノキは「頑張って」とノーランドに言い、森の奥に姿を消した。
青い翼が闇に揺れる。


「…………。……あ、あァ、急がねば……」






















ノキは村に着くと、檻を見つけ、首を傾げた。
近くにいたシャンディアの男が、ノキに話しかけた。


「ノキ。どこにいたんだ」
『森。それより、あれは?』


檻を指差す。
一つにはムースが、もう一つには100人もの人が入っていた。


「人質だ」
『森の中にもう1人いたよ?』


そう言うと、ノキに訳を話した。
ノキは「ふーん」と曖昧に答え、檻をもう一度見遣る。


「侵入者に何もされなかったか?」
『うん』


返事をし、檻に近づこうとすると、肩を掴まれ止められた。
ノキの肩を掴んでいるのはカルガラだった。


「あいつらと関わるな」
『話すだけなら大丈夫だろ?』
「…お前は誰にでも心を許しすぎだ」
『そうかな…?』


ノキがそう言うと、カルガラの手に力が加わる。
ノキは苦笑し、「わかった」と言って、そこに座った。


『カルガラ』
「何だ」
『たまには、一生懸命な人達の話を聞く事も大切だよ』
「…酋長と同じ事を言うんだな」
『おれもおじいちゃんだからね』


と笑い、空を見上げた。
先程までは雨が振っていたというのに、今は星が輝いていた。


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