‡ThE sEcReT rOoM‡


□END
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市瀬さんのハリウッド行きが決まった。

「優……俺、どうしよう…」

電話口で珍しく弱音を吐いた市瀬さんに、笑いながら事情を尋ねて…笑顔が凍った。
市瀬さんの所属している事務所は大きくなく、事務所はその場で快諾してしまったらしい。
俺には止める権利はないし、市瀬さんには成功の道を歩いて欲しいと思う。
思う…けど。
恋人とはいえどうする事もできず、市瀬さんの家に急いだ。



「す、ぐる…?」

電話で殆ど事情を聞いた俺の考えは一つ。
──市瀬さんが俺を忘れて、俺も市瀬さんを忘れてしまえば良い──

俺は、そんな気分じゃないと嫌がる市瀬さんを押し倒した。
無理やり口付けて、無理やり脱がして。
そう言えば数年前、俺が「秀和」と呼んだら「その名前で呼ぶな」と怒られた。

「市瀬さんっ……秀、和…」

再びその名前で呼ぶと、やめろと言われたが、構わずに耳元で何度も囁いてやった。

「やっ……どうしたんだよっ、優…っ」

喉から絞り出す様な声で、泣き出しそうな表情で俺の瞳を見つめる市瀬さんを直視できない。

(ごめん…市瀬さん…)

そう心の中で呟いた。
本当なら抱き締めて、行くなと言いたい。
何処かへ行ってしまう
くらいなら俺の手で閉じ込めて、誰の目にも触れさせないで。
ずっと。
けど…市瀬さんの事を思うとそれもできない。
それに市瀬さんは仕事を大切にしている人だから。
俺はそんな市瀬さんに惚れたんだから…。

俺が市瀬さんを抱く時、いつも市瀬さんは上気した顔で「嫌だ」と言う。
もちろんそれは、本気で言ってるわけじゃなくて、余裕ぶってる俺への、ささやかな抵抗。
けど今は。
涙を零しながら「嫌だ嫌だ」と呟いている。
この人の涙を拭いちゃいけない、俺にはこの人の涙を拭う資格なんてない…そう思った。
そしてそのまま、無理やり開いて、犯して、抱いた。

(好きです、大好き…)
いつも口にしているこの一言が言えなくて、苦しくて苦しくて涙が出た。



******



めちゃくちゃに抱いて、意識を失ってしまった市瀬さんの頬に残っている涙の跡。
その涙の跡を拭おうと伸ばした手を、引っ込めた。

(これで…市瀬さんは俺の事も思わずハリウッドへ行ける…)

そう自分に言い聞かせても切なくて。
自分でした事なのにどうしようもなく苛々した。
そのまま置き手紙も何も残さずに市瀬さんの家を出た。




数日後、市瀬さんの家へ向かってみると、表札は既に違う名前になっていた。
事務所に聞くと、自ら予定を早めてもうハリウッドへ発った、と教えられた。


もう、こんなに辛い恋はしないだろうと思った。

市瀬さんの中から俺は消えた。
俺も全て消そうとした。
市瀬さんとやり取りしたメールも、アドレスも。



さよなら…俺の大好きだった人。





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そして、おとぎ話の二人は終焉へと向かっていく。
熱くて、幸せで、苦しくて、思い出さえも泡と消える…そんな、一抹の夢──。



【Bad End】
 

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