SEED SHORT
□過去拍手2本
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*きみがいなければ*
「ねえ、キラ」
「…キラー」
「キラってば!!!」
急に響いた彼女の声に驚いて、僕は目を見開いたままの状態でまじまじとその顔を見てしまった。パソコン作業をしていたので普段は掛けない眼鏡を掛けていた。レンズから覗く、不機嫌な顔も可愛い、じゃなくて、ええと…
「もう、私の話聞いてなかったんでしょう」
思考の止まった僕を睨みつけていた大きな目を逸らして、小さくため息をつくように呟く彼女。未だにぱちくりと目を瞬かせてみたけれど、状況が解るより先に、目の前の彼女の表情に目が行った。寂しそうな横顔が、なんだか酷く愛おしくなって、思わずその手首を掴んだ。
「───、キラ?」
「え、あっ…えっと」
でもその行動は無意識だったから、自分でも驚いてしまった。手のひらを伝わる温もりを離す気はないけれど、何を喋るかなんて、まったく考えていない。
「その…う、うーんと、」
今日は頼まれたプログラムの解析が溜まっていて、それが結構な量とシロモノで、大変で、時間かかっちゃって、…言いたいことは沢山あるのに、言い訳にしかならない気がして切ない。兎に角、何かを言わなくちゃ、でもなにを、ぐるぐるぐるぐる思考が旋回しているのがわかる。口が開いては閉じて、結んでは、緩んで。視線は徐々に、下に行って。
「う、あ、の」
「……………ふ」
「………ふ?」
「ふ、あははははははは!」
突然笑い出した彼女に思わず顔をあげると、お腹を抱えて目を擦りながら笑っている。
涙が出るほどおかしかったの…?
「きら、迷子みたい」
しゃがみ込んでけらけら笑っていたから、必然彼女は椅子に座る僕よりも下にいて、上目遣いになる。柔らかく微笑んで、長い髪はさらりと頬にかかって、嬉しそうな、甘い声で─────…
「ぼく、きみがいないとすぐに迷子になっちゃうよ」
惹かれるように椅子から降りて下にしゃがむと、目線が同じになった彼女が意地悪く笑う。
「私に、気がつかなかったのに?」
「…だから、」
だから、いつだって僕を呼んで
どんなときでも、僕に触れて
きみを見失ってしまったぼくを
「嘘…ふふ、おかえり、迷子のキラ」
甘く呼ぶその声が、ぼくの道標となるように。
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調子良いことばかり言うキラでした←
ヒロインの笑顔を見て安心するキラは好きです。なんというか、キラにとって守るものは心の琴線を保つ重要なものなのだろうなあ、と思います。
→もう一本!