SEED SHORT

□過去拍手2本
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「さむいさむい何これ死ぬの?ばかなの?プラントってかコーディネイターってばかなの?」
「痛い痛い痛い!頼むからしがみつくならもっと女子らしくしがみついてくれ!」

普通寒空の下をカップルが歩くのならば、それは片腕を彼女に取られて歩くか、2人で手を繋いで歩くのだとアスラン・ザラは信じてやまなかった。実際彼のガールフレンドと呼べるこれまでの女の子達は皆そうしてきたし、そうでない例外は恥ずかしすぎて自分に触れられない、等といじらしいことを言って余計に可愛らしさを助長させたものだ。しかし今彼の隣でアスランの胴体を絞め殺さんばかりの勢いでしがみついている彼女は、これまでの常識からあまりにも外れている。強すぎる力に実は女ではなかったのではないかとふと頭をもたげて、彼女が自分の今の彼女とは認めたくない気すらしてきた。いや、今の彼は己の魂がうっかり乖離してしまわないように必死で、そんなことを考えている余裕すらないだろうが。

「だって寒い!死んじゃう!雪とか!しかもアスランあんまりあったかくない!」
「なら余計にくっつくなよ!自分から頼んだくせになにがしたいんだおまえは!」

アスランの現彼女はプラント天候管理局のお偉いさんの娘だ。育ちの良さや父親に甘えるのが上手い点など、今まで彼が見て来た“お嬢様”の資質もしっかり持っている筈なのに、彼女には飾り気というものが全くない。勿論化粧もするし社交性が無いわけではないのだが、内面がすこぶる素直で言いたいことをはっきり言う、どこか“お嬢様”らしくないところがあるのだ。そんな彼女に振り回される内にすっかりキャラが崩れている彼だが、その物言いには遠慮が無い分逆に彼女との親しさを伺わせる。女性をエスコートするような恋愛ばかりを意図せずしてきた彼にとっては、自然体で居れる彼女の側の方が心地良いとどこかで感じ取ったのだろうか。

「天気だけでよかったじゃん!気温まで下げる必要なかったよね!?」
「…親父さんにリアリズムを追求するよう勧めたのは誰だったんだ?」
「うぐッ…こんなに寒いと思わなかった」

しかしそこはやはり箱入り娘、実際の雪がどんな状況下で降るかも知らず、見てみたいからとせがんだらしい。そうではないかと今日初めて彼女に会ったときから思っていたアスランはさほど驚かない。これくらいで驚いていてはとても彼女と一緒にはいられないのだから。

「もう室内に入ってガラス越しに見よう。そのほうが綺麗だし落ち着いて見えるさ」
「………ん、わかった、わかりました。…でも、実体験が大事だから、私寒い思いして良かったよ」

鼻がすっかり赤くなった状態で真面目なことを言っても大して締まりはなかったが、アスランは馬鹿にするでもなく優しく目を細めて、懐から取り出した水筒の温かいお茶を彼女に渡した。彼は彼女のこういうところが、即ち自分にとって厳しいものでも糧にしようときちんと受け止めるところが、たまらなく好きなのである。彼女が我儘を言う人間は限られているし、己の身に返ったことを理不尽に責任転嫁なんてことは、彼女は絶対にしない。

「とりあえずアスランと雪の中デートするっていうノルマは達成出来たし。私の初体験はすべてアスランに捧げてやんよ!」
「ぶッ!」
「おわ!きたなっ!」

交互に飲んでいたお茶のカップを渡しながら爆弾発言を投下した彼女に、運悪くお茶を口に含んでいたアスランは思いっきりむせた。大仰なリアクションで避ける仕草をする彼女は、自分がどれだけ問題発言をしたのか分かっていないだろう。

「大丈夫?嚥下障害?」
「………」

ハンカチを差し出す彼女は絶対に色々間違っている。間違っているが、アスランはやはりそんな彼女が好きで、振り回されるのが好きなのだろう。

いやはや、世の中のカップルとは分からないものである。



(…ん?振り回されるのが好きとか、アスランそれ何てドM?)
(違う、断じて違う!というかキラ!お前だって彼女に使いっぱしりにされるのがイイとか言ってたじゃないか!)
(馬鹿だなあアスラン、僕はそれで申し訳なさを感じて縮こまる彼女を見るのが好きなんだよ?ドMな訳ないじゃない)
(…)










***
拍手でアスランは初、かな?キャラ崩れとかアスランはデフォルト(←)キラはちょっと特殊趣向入ってるキラ様テイストですが。初雪降った記念に書いてました。まだまだ寒いので風邪ひかないようにしましょうね!雪深いとこに住んでる方とかは特に!もう一つの方はもう春で、キラです。原作っぽい描写ありますが時期的には本編前か、パラレルっぽい感じで読んでいただければと思います。
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