本編沿い


□Story28
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貴方の傷を癒すことが、私の望みでした。

貴方に寄り添い歩くことが、私の唯一の安らぎでした。

…それももう、届かない距離に、来てしまったけれども。



Story28、重なる願い



ごった返しになる地下ドックで、アークエンジェルから移動命令を出された3人はその慌ただしさに思わず瞬きを繰り返した。
これではJOSH-Aの中身がそっくり移動するようだとムウが怪訝に思ったくらい、その騒がしさと混雑は異常だった。

「きみの搭乗艦は向こうだな」

ひとしきり混雑について疑問を浮かべるように呟いてから、それでもしっかりものなナタルはフレイの指示書を見やりながら告げる。
彼女もそれに対して頷きつつ、周りをきょろきょろと見回している。

「(…もっと、抵抗したり取り乱したりするかと思ったんだけどな)」

フレイの移動命令は、彼女の存在を戦意に利用しようという上の思想の現れからだった。友達と共に居たいだろうに、と思うムウ達を余所に、当の本人は文句も言わずに友達の心配をしながらも穏やかに別れを告げていた。
それが、かつて彼女が懐いていた少女を思わせて少し胸が痛むのだが、気丈に振舞っているのならそのプライドを傷付けることも憚られてムウは何も言うことが出来なかった。
アラスカでの査問会は、それはもう酷いものだった。いつぞやに由希が言ったように、本当に上層部はいけすかない──

「少佐はどちらですか?」
「あ、俺はお嬢ちゃんと一緒だよ」

考え込んだまま突入してしまった思考回路の苛々にぶち当たり、慌ててタイミング良くナタルが掛けてくれた言葉に返事をする。

由希とキラを失ってから、ムウの心象はすこぶる悪い。それは今まで自分たちを守ってくれていた幼い少年少女たちを守り切れなかった己の弱さのせいだったし、そんな彼らについてまるで邪魔者だったかのように話す上層部の苛立たしい話のせいでもあった。あの後は流石に戦ってきたことへの虚しさと由希に対する申し訳なさのオンパレードで、救いようがないくらいどす黒い気持ちが渦巻いていた。きっと、同じ気持ちをアークエンジェルのクルーも味わってくれただろう。そう、それだけがムウの救いだったのだ。

当たりの良い由希に好感を持つ者たちは、こぞってあの査問会に疑問を投じ、腹を立てた。しかしそれはそのまま自分たちが所属する軍への疑問ととってかわる。
艦に残されたものたちも大分不安だろうが、ムウもまた不安だった。こんな気持ちを抱えたまま、カリフォルニアで教官になることなど出来ない気がする。


溜息をつきながらもナタルと別れ、フレイと共に所定の列に並ぶが、いつまでもムウはそわそわと落ち着きがなかった。
ちらりと隣の少女を見ると、対照的に落ち着いていて、当てが外れたと思うと同時に、これならば一人にしても平気だろうと安堵の色も浮かんだ。

上の言葉は最低な響きではあったが、前線で戦わなくても良いということは安全なところに居られるということだ。それならきっと大丈夫だろうと決意して、疑いの色が濃くなってくる気持ちを落ち着かせるためにも、ムウは待機列を離れることにした。
──もし乗り遅れたとしても、かまわないと思えるほどの気持ちで。
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