本編沿い


□Story27
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いつかの波の音を聞いた気がした

洞窟の中で笑う彼女と共に



Story27、絶望的な夢は虜囚へと誘う



アークエンジェルからの救難要請を受けオーブを発った飛行艇アルバトロスのなかで、カガリは落ちつかなげに2人の少年少女のことを考えていた。
どちらも浅い関係ではないと自負しているだけに、カガリの心痛と不安は多い。しかし何としてでも見つけ出すという気持ちも、確かに持っていたのでまだ上を向くことが出来る。
気負いながら窓の外を見つめる彼女は、だから気付かなかった。同行するキサカが、アークエンジェルからの救難要請が書かれたもの以外に、もうひとつ何かを真剣に読んでいるということに、この時は、まだ。


浜で発見された少年は、カガリの思い描いていた少年ではなかった。敵軍のパイロットも自身の望んだ彼と同じくらいの齢だということに驚きもしたが、残念がる気持ちの方が勝り、それだけに落胆の色を浮かべるカガリに、しかしキサカは人命救助だからな、と言って彼をアルバトロスへと運んだ。


揺られながらアスランは深い海の底に居る夢を見ていた。
海底の中に沈んでいる筈なのに、何処からか波の音は聞こえてくる。何故だろうと思いながら耳を澄ませていると、その波の音に笑い声が混ざるのを確かに聞いた。
姿は見えない柔らかい声は、聞くだけで安心する、彼の大好きな彼女のものだから誰かと云うことは一瞬で分かる。


──そんなところでなにしてるの?アスラン

由希…?

ぼんやりと視線を向けた自分に、彼女はぼんやりとした輪郭の中でも優しげな微笑みを浮かべた。

──うん、…ねえ、海の底から見上げる空って綺麗でしょう?

言われるがままに顔を空に向けると、水の中でも一心に光を注ごうとする太陽からの熱が心地よくて、その幻想に驚きながらもそれが自然に出来るものだと感じられて頬が緩む。

ああ…そうだな、地球には、こんなに美しい景色があるのか

──海はね、人類の母と呼ばれているのよ

母なる海、か…

そういえばニコルも海に感動してはよく甲板に登っていた。トビウオの群れにテンションを高くしていたのが昨日のことのように思い出せて微笑ましくなった。

──そう、ねえアスラン。お母さんの腕の中で、貴方は今何を思うの?

なに、を?

──貴方の胸に蠢くものは、なに?

応えられないでいるアスランに、由希は哀しそうに笑って、最後に小さく呟きながら、遠ざかっていく。

──後悔をしない戦いをして…アスラン。あなたは、なんのためにたたかうの?


「……ッ、由希…」
「!…気がついたか」

行ってしまう彼女に手を伸ばそうとして、身体が軋む痛みでアスランは簡易ベッドの中眼が覚めた。
ぼんやりとした頭でもいつもなら状況把握を先にする筈なのに、夢のことが気になって近くに居る気配すらどうでもよかった。
そして彼は唐突に悟る。

「(ああ──そうか、今のは、夢なのか)」

もう自分には、夢でしかあの少女に会うことは許されていないのだ。
どうしてだろう?何故もう現実では由希に会えないのだ?身体も精神も自分のものにしたのに…………

「ッそ、か」

アスランは急激に全て思い出した。
自分がやったことも、その感触も、歪んだ思いも、全て。
痛むのは哀しみではない。自分には哀しむ資格すらないのだ。彼女が守った己の親友さえ、手に駆けてしまった今では。
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